モクジ

● 雨の日の片想い  ●

ザーザーザー


「今日もよく降るねぇ〜」
「ねぇ〜。もう梅雨だもんね‥‥」
「もういい加減嫌なんだけど、だって髪の毛湿気でまとまらないし」
「そうそう!もう いい加減止んで欲しいよね」


最近ずっとよく聞く会話。

たしかに雨でジメジメするのは嫌だけど、私は雨が嫌いじゃない。



「斉藤!お前どこの高校受けるんだ?」

中学3年の冬。みんな受験勉強に大忙しの時期に、私に声をかけてきたのは、同じクラスの『松谷 祐二』だった。

「何?めちゃくちゃ今更だよね?」
「ん?今更だから聞いてんだよ」
「‥‥いや、あんまり意味分からないけど」
「もう 何でもいいから、お前何処受けるんだよ?」

正直、あんまり言いたくなかった。だって私は平々凡々なのに、松谷はトップレベルの高校を受けるぐらい優秀なのだ。

「‥‥‥海津」

ボソッと呟いた私の声は、松谷に届いたか分からない。

「‥‥海津?へぇ〜、結構俺の受けるとこと近いじゃん。お互い受かったら会えるかもな!あっ、ちなみに俺は海北なんだけど」

屈託なく笑う松谷の笑顔は、不思議と全然嫌味っぽい笑いに見えなかった。

「じゃぁ、お互い頑張ろうぜ!!」

友達のところに歩いていった松谷の後姿を眺めながら、さっきの言葉を思い出していた。


『ちなみに俺は海北なんだけど』


―――‥知ってるよ。だって、1年のときからずっと松谷のことを見てきたんだから。


私の中学校生活を通しての片想い。
それも もう、終わってしまう‥‥‥。

「有紀〜?何見てるの〜?」
「‥‥‥加奈子‥‥」

いつの間にかこっちに来ていた加奈子が、私の頭に手を置いて ニヤニヤしながら聞いてきた。

「まっ、どうせ 松谷のこと見てたんだろうけど」
「‥‥‥‥‥‥」

加奈子は私の好きな人を知っている唯一の友達。
結構サバサバしてる付き合いやすい友達だ。

「ねぇ、有紀。余計なお世話かもしれないけど‥‥、言わないまま卒業するつもり?」

加奈子が言ってるのは、告白するのかしないのか?ということだ。

「‥‥‥もう、今更言えないよ‥‥」

今までの三年間。奇跡的にずっとクラスが同じで、その間友達として仲良くしてきた。それを最後の最後で壊す気には、とてもじゃないけどなりはしない。

「でも、後悔しない?」

「しないよ」

あの時 私はそう言った。


私たちは、それぞれ希望通りの高校に合格した。
それから数ヶ月が経って、今は六月。


雨は嫌いじゃない。その理由は、松谷に会える唯一の日だからだ。

「ねぇ、有紀。後悔してるんでしょ?」

実は同じ学校を受験していた加奈子は、そう私に話し掛けてきた。

「‥‥‥何が?」

加奈子は窓の外をチラリと見てから、私に視線を戻した。

「松谷のこと。‥‥‥雨の日になると、ずっと窓の外と時計ばっか気にしてるし‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「そりゃね、気になるよね?雨が止んでたら、松谷と同じバスに乗れないかもしれないもんね?」

加奈子の言ったことは真実で、返す言葉が見つからなかった。

「ねぇ、後悔してるんでしょ?見てるだけじゃ、辛いでしょ?たまに会うだけじゃ、寂しいでしょ?」
「‥‥‥‥‥」

「今からでも‥‥、遅くないと思うよ?」

「‥‥でもさ」
「そんなこと言ってて、手遅れになっても知らないよ!?」
「加奈子‥‥」
「ずっと、その気持ちを引きずって行くわけには‥‥行かないでしょ?」
「‥‥‥うん」

加奈子は笑って、私の背を叩いた。

「‥‥‥頑張れよ」
「‥‥‥ありがと」



その日の放課後、運命の時‥‥‥。

―――‥来たっ!!

向こうの方から、バス停に向かって歩いてくる人影が見えた。それは、見間違えるはずがない 松谷の姿だった。

「―――‥松谷!あの、その‥、話が‥‥」

鞄を肩に掛け直しながら、ん?とした顔をした後、少し微笑んで「何だよ?」と聞いてきた。

「何か 珍しくねぇ?斉藤から話し掛けてくるなんて」


「あのっ!!好きなのっ!!」


「‥‥‥はっ?‥‥」

目の前の松谷は目が点。それでも、私の告白はもう止まらない。

「1年のときから、ずっと好きだったの。でも、松谷は私のこと友達としてしか見てなかったから‥‥、結局言えなくて‥‥」

「ちょっ、ちょっと待て。‥‥誰が、誰を好きだって?」

「‥‥私が、松谷を好きなの」

瞬間、松谷の顔が一気に真っ赤になって 松谷は口元に手を当てて「ウソだろ?」と呟いた。

「嘘なんかじゃないわよ!‥‥ごめん。もう いい。忘れて」

そう言って背を向けた私に、松谷は慌てて声をかけてきた。

「違っ!‥‥俺も、好きなんだよ。‥‥斉藤のこと」

「‥‥‥え‥?」

「俺も、1年の時から ずっと好きだったよ」


三年越しの片想いは、少し憂鬱な雨の日に、両想いに変わった。
これからきっと私は、この雨の日を何よりも大切にしていくのだろう。


モクジ
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