BACK | NEXT | TOP


女 の





まだ少し寒さが残るなか、サッカー部はグラウンドにて 間近に迫った練習試合に向けて練習をしていた。み んながみんな必死に走り回る中、一人だけ何処か遠くを見つめるようにしてグラウンドの端の方に秋広は座 り込んでいた。

「おーい!!秋広!!」
「‥‥‥‥‥」
「どうしたんだよ、お前」

心配そうに顔を覗き込んでくる友人をチラリと一瞥し、すぐに視線をそらす。

「どうもしないよ」
「そんなことないだろ?最近お前おかしいよ。練習態度も滅茶苦茶だし」
「‥‥悪かったな」

ボソッとそれだけ呟くと、慌てたように友人は首を横に振った。

「違う違う!!責めてるわけじゃないんだよ!!ただ、心配なんだよ」
「‥‥‥‥‥」
「俺たちは、お前がいたからここまでこれた。そのお前がさ、最近元気はないし 練習に身も入ってないし」

立ったままで話していた友人は、俺に目線を合わせるようにして 座り込んだ。

「なぁ?もしかして、仲尾のことが原因か?」
「‥‥え‥?」

友人の口から仲尾の名前が出てきて少し驚く。その驚きを感じ取って、友人はやっぱりなと呟いた。

「そうじゃないかとは思ってたんだ。仲尾、ちょうど一ヶ月前ぐらいから入院しっぱなしだろ?お前の様子 が変わってきたのもその頃だったはずだしさ」
「‥‥俺、そんなに前と違うか?そんなに変わったか?」
「‥‥変わったよ。目に見えて元気がなくなってる。練習試合だってさ、お前が一番張り切ってただろ?な のに、今はどうだよ?お前が一番やる気無いじゃないか!!」
「‥‥そうだな」
「そうだな。じゃないだろ!!仲尾が入院してて、心配なのは分かる。でもな?お前が元気なくしたからっ て仲尾が目覚めるわけじゃないだろ!?違うのかよっ!?」

次第に声の音量が上がっていく友人に苛立ちが募る。
俺がこんなに心配してるからといって、仲尾が目を覚ますわけじゃない。そんなことは分かっていた。でも 、心配せずにはいられないんだ。今だって、気になって気になって仕方がない。

「それでもっ!!気になるんだよ、仲尾のことが!!」

ずっと黙って聞いていた俺が突然大きな声を出したことによって、少し友人は目を見開いて驚く。

「俺、先月言ったんだ。3月14日の練習試合見に来るよなって。あいつ、来るって言ってたんだぜ?なの に、今はどうだよ!?見に来れる状態じゃないじゃないか!!」
「‥‥‥‥‥」
「見て欲しかった人が今はいない。そのことが、どれだけ俺にダメージを与えたか。お前には分からないよ」

そこまで言って、膝に顔を埋めた。そっと頭に乗せられた手にピクリと反応をしたけれど、俺は何も言わず にいた。

「悪かったよ。でも、仲尾だって今頑張ってるんだろ?なら、お前もサッカーを頑張れよ」

頭にかかっていた重みがなくなると同時に、俺から離れていく足音が聞こえた。足音が遠く離れてしまった あと、ゆっくりと顔をあげ 目の前に広がる世界を見つめる。

「そっち行ったぞ!!」
「遅いっ!!」

必死に走り回るチームメイトが俺の目に映った。体中汚れてて、見れるもんじゃない。でも、流した汗だけ 俺たちの絆は深まっていったんだよな。やる気のなかったサッカー部。その中を引っ掻き回して今の部にし たのは自分。

「何やってんだろな。俺」

間近に迫る練習試合に向けて、こんなに一生懸命チームメイトは頑張っているというのに、今まで俺は何を していたのだろう?情けなさ過ぎて涙も出てこない。
自嘲気味の笑みを浮かべて立ち上がる。

「‥‥俺も頑張るから、お前も頑張れよな」

それから俺は、今までの遅れを取り戻すべく練習に打ち込み始めた。


BACK | NEXT | TOP

Copyright (c) 2005 huuka All rights reserved.





100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!