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女 の





最近、よく夢にうなされる。
思い出したくもない。考えたくもない夢だ。
どうして自分がこんな夢を見なければならないのか?そんな疑問ばかりが頭に浮かぶ。けれど、その夢は毎 晩のようにやってきて 俺を散々苦しめてから何事もなかったかのように去っていく。
目を覚ませば、悪夢のような光景は消えていて いつもと変わりない自分の部屋だけが目に映る。


いつも見る夢。それは、こんな内容だった。


部活から帰った俺は、シャワーで汗を流してからリビングに行き テレビのリモコンを手に取ってそのままソ ファに座り込んだ。
その瞬間、電話の音が部屋中に鳴り響き 誰だ?と思いつつ電話のところまで歩いていき、受話器を取る。

「もしもし?」

電話の相手は仲尾の母親。少しだけ、嫌な予感がしつつも話の先を促す。

「ど、どうしたんですか?」

こういうときに限って、嫌な予感は当たるのだ。


――― 仲尾が息を引き取った。


おばさんの震えた声を聞きながら、本当のことなんだと頭の隅で理解する。呆然としたまま受話器を置き、 ふらつく足取りでソファまで歩いていき、一気にドサリと座り込む。そのまま頭を抱えてさっき聞いたばか りの情報を頭の中で整理する。
そして、やっと理解が出来た時。頬を冷たいものが伝った。

「嘘だろうっ?」

この涙を止める術を、俺は知らない。


そこでいつも目を覚ますのだ。


毎朝考えることがある。
考えたくないことだ。考えてはいけないことだ。けれど、考えずにはいられないことだった。

――― いつかこれは、本当のことにならないだろうか?

口に出すことは恐ろしすぎて、心の中だけにその疑問は留まらせる。
手術が成功した直後は、目を覚ますのを待つことになんの苦痛も感じなかった。手術は成功したんだ。なら 、すぐに目を覚ますだろう。そう、考えていたから。
でも、仲尾は一向に目を覚まそうとしない。これは一体どういうことだろう?不安ばかりが募る。待つのも 苦痛になってきた。いっそのこと、仲尾のことを忘れてしまいたいとさえ感じることがある。

「くそっ!!」

こんな考えを持つ自分に嫌気がさす。
けど、もう一ヶ月が経つんだ。‥‥考えずにはいられないだろう?仲尾が、このまま目を覚まさなかったら どうしよう?って―――‥‥。

不安で不安でしかたがない。
どれだけ希望を持っても、どれだけ気丈に振舞ってみても、この不安だけは消せやしない。

「怖いんだ。お前のいなくなる夢を見るのが」

眠ることが怖いと思ったのは、これが生まれて初めてだった。


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