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僕 と 彼 女 の 約 束
5
「明日はいよいよ試合の日だ!!」
「おう!!」
「ホワイトデーだからって浮かれてんじゃないぞ!!」
「お、おう」
「明日は俺たちにとっては『ホワイトデー』じゃねぇ。『試合の日』だ!!覚えとけ!!」
「‥‥‥‥」
一人意気込んで話続ける男子生徒約1名に、もう誰も話についていこうとしなかった。
溜息交じりにその様子を遠巻きに見ていた俺。そんな様子に気付いた友達が近くまでやってきた。
「どうしたんだよ」
「いや、あいつ何かおかしくね?」
「何が?」
「だってさ。バレンタインデーの日だったらそれを意識すんなっていう意味で分かるんだけどよ」
ホワイトデーは男の方から女にお返しをする日だから、そこまで意識することに意味があるのか分からない
。
「ああ。あいつってホラ、つい最近彼女と別れただろ?」
「マジ!?あいつらってかなり仲良かったよな!?」
「う〜ん、そうなんだけどな。何か、彼女が引いちゃったっていうか何というか」
言いにくそうに口ごもる友達を見ながらわけも分からず?マークを飛ばしまくる。
「いいか!!彼女がいるからってなぁ、張り切って勝利を君にプレゼントするとか言うなよな!!」
言わない。絶対、言わない。
「‥‥‥‥‥」
部員一同沈黙。口を閉ざしたまま可哀想な仲間を哀れんでいる奴や突然すぎるその言葉に何を言われている
のか分からずにポカーンと口を開けている奴がいた。
「ま、まさか‥‥」
言ったのか?そういう意味を込めて、友達に視線を送る。俺の視線に気付いた友達はハハッと苦笑して首を
縦に振った。
「‥‥マジ?」
「嘘吐いてどうするよ」
「まぁ、そうだよな」
はぁ〜と溜息をひとつ吐いて未だ意気込んで話し続けるチームメイトを眺めた。今時、いや 昔でも言わない
か?って思うぐらいの台詞をよく言えたもんだと思う。漫画とかドラマの見すぎじゃないだろうか?
「でも、あいついい奴なんだけどな」
「まぁな」
いい奴なんだけど、少しばかり夢見がちな ロマンチストな男だった。
********
「こんにちは〜。っと、あれ?」
いつも通りに仲尾の病室に見舞いに来た。けれど、いつも仲尾の側で座っているおばさんの姿が見えない。
「‥‥鞄、はあるよな」
少し離れてるだけなんだなと思い、おばさんが戻ってくるまで椅子を使わせてもらうことにした。
「‥‥元気か?」
返事が返ってくるわけなんかないのに、どうしてかそう問い掛けてしまった。そんな自分に苦笑しながら、
そっと仲尾の手を握る。反応の無い手。温もりはあるのに、握り返すことも拒絶することもしてこない。
「俺、明日試合だぜ?お前、見にくるって言ってただろ?」
握り締める手に少しだけ力をこめる。
「‥‥頑張るから。‥だから、お前も頑張れよな」
目が覚めることを祈っている。君ともう一度ちゃんと話せることを願っている。だから、どうかどうか 1日
でも早く俺との約束を守って。
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