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わがままな姫君



『わがままな宣告』(2)


「そういえば、どうしてあんな所歩いてたのよ」

教室まで帰る途中に、突然思い出したようにして姫乃はそう菜穂子に聞いた。
菜穂子は何を今更というような顔をした後に、こう言った。

「転校生の案内をしていたのよ」
「転校生?」

転校生の紹介なんて朝のSHRであっただろうかと考える。
その姫乃の考えを見透かしたようにして菜穂子は言った。

「正式に転校してくるのは明日よ。今日は、見学に来ただけみたい」
「ふ〜ん。そうなの」

それならば、自分に覚えがないのも頷けた。
けれど、その転校生の案内をどうして菜穂子がしていたのだろう。

「でも、何でその案内を菜穂子がするのよ」

その問いに、菜穂子は一度目を丸くするが、その直後呆れたように苦笑した。

「私、委員長でしょうが」
「あ、そっか。そういえばそうだったね。良かったぁ、私委員長じゃなくて」
「あんたねぇ〜」

実はこの委員長、本当は姫乃になる予定だったのだ。
しかし、ほとんど姫乃に決まりかけたその瞬間姫乃がボソリと呟いたのだ。

『どうしよう。委員長になってしまったら、風紀委員になることが出来ないわ』
『えっ?姫乃さん、風紀委員になりたいの?』
『ええ。だって、風紀委員になれば毎朝みんなと必ずあいさつすることが出来るでしょう?ほら、服装検査 の時に』

にっこり微笑んだ姫乃。その笑顔と毎朝交わされる朝の挨拶の光景を想像して、クラスの男共は口元が緩ん でいた。

『じゃあ、姫乃さんは風紀委員で』

司会を務めていた男子がそう言うと、数人の女子が声を上げた。

『ちょっと!!なら、委員長誰がするっていうのよっ』
『えーっと‥』

困り果てた司会の男子を見て、姫乃は静かに手を挙げた。

『あの。委員長なら、瀬田さんがいいと思います』
『瀬田さん?』

姫乃の言葉に菜穂子はギョッとする。
けれど、そんな菜穂子のことはおかまいなしに姫乃は続けた。

『ええ。彼女とてもしっかりしていますから。私よりも上手くクラスをまとめてくれると思いますわ』

その姫乃の言葉で、菜穂子の委員長生活は始まったのだった。


「私がこんなことしないといけないのは、全部あんたのせいでしょうが」
「あら、嫌ならあの時断ればよかったじゃない」

それが出来ていたなら苦労はしないと、菜穂子は自分の中で呟く。
もしあの時自分が断っていたならば、姫乃ファンの男達に睨まれることは分かりきっていた。出来ればそれ は避けたいところだ。委員長になることで、その面倒に巻き込まれることがないのなら、これくらいの苦労 は喜んで受け入れよう。

「別に、嫌じゃないけどね」
「ならいいじゃない」

けろっと言ってのける姫乃をじとーっと見つめるが、姫乃はそれをきっぱり無視である。

「ちなみに、その転校生は男?女?」

目をキラキラと輝かせてそう問い掛ける姫乃。

「‥‥男よ」

菜穂子が男だと告げた瞬間、姫乃の顔がパァーッと輝いて見えたのはきっと気のせいではないのだろう。

「そう、男‥‥」
「‥‥‥‥」

嫌な予感が菜穂子の胸中を過ぎる。そして、その予感は見事に的中することとなる。

「フフフッ。どんな人かしら、楽しみだわ」

姫乃の頭の中は、もうすでに明日のことを考えていた。
今日の残りの授業なんか、全部上の空決定だ。
けれど、姫乃が上の空で授業を聞いていると何故か儚げな美少女に見えるそうで。可愛いor綺麗な奴は得だ としみじみ考えた菜穂子の午後。


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