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わがままな姫君



『わがままな宣告』(3)


「転校生を紹介するわね」

次の日、そう言って担任が連れてきた男子生徒は誰もが目を奪われる程の美形だった。

「浅川 皇です。よろしくお願いします」

そう言って礼をする転校生。頭を下げたときにサラリと流れた髪の毛に前の方に座っていた女子達が思わず 見惚れてしまっていた。

「何か他に言いたいこととかある?」
「いえ、特にないです」
「そう。じゃあ、浅川くんは穂高さんの隣に座ってくれるかしら」
「穂高‥?」

穂高というのが誰のことを指しているのか分からずに、皇は首を傾げる。
その様子に気付いた先生が、慌てて言い直した。

「あら、いやだ。穂高さんなんて言っても転校してきたばかりじゃ分からないわよね。ほら、えぇと窓際の 後ろから二番目の席に座ってる子の隣よ」
「‥分かりました」

先生が指し示した所に視線を向けて、自分の席が空いていることを確認する。
クラス中の男子生徒が、自分に向けて羨望の眼差しを注いでいるのは気のせいだろうか。

肩に掛けていた鞄をしっかりと持ち直し、皇は自分の席に向かって歩き出した。
そこに辿り着くまでに、皆から物珍しそうな視線を向けられる。転校生ってこういうものだよなと皇は考え ていたが、実際は違った。
男子は姫乃の隣に座ることを許された転校生への嫉妬と羨望。
女子はなかなかお目にかかることの出来ない程の美形に見惚れていた。

「初めまして。私、穂高 姫乃と言います。仲良くしてくださいね?」

皇が席に着くやいなや、姫乃は即座にそう声を掛けた。もちろん表情は誰もが見惚れる極上スマイルだ。
声を掛けられた皇は、チラリと姫乃に目をやってから鞄をどさりと机に下ろした。

「ああ。よろしく」

素っ気無く答えてから、皇は椅子を引いて静かに座った。
その様子をみて、姫乃は呆気にとられたように目を丸くする。

「へぇ〜。あの姫乃の笑顔に騙されないなんて、なかなかやるじゃん」

姫乃の前に座っている菜穂子が小声でそう話し掛けてきた。
その菜穂子に向かって、姫乃は不機嫌そうに小声で答えた。

「ありえないわ。どういうことよ」
「そんなこと私に分かるわけないでしょ。まぁ、あんたの自慢の美貌もここまでだったってことじゃない?」
「違うわ。私が悪いわけじゃないのよ。そうよ、きっと照れてるだけだわっ。そうに違いない」
「はぁ?」

突然そんな結論を導きだした姫乃に菜穂子は唖然とする。
けれど、姫乃の勝手な推理は止まらない。

「ほら、だってこれからしばらくは隣同士で過ごすわけじゃない?それなのに、私の美しさに目を奪われす ぎて授業に身が入らなかったり、クラスに馴染むことが出来なくなってしまうかもしれないものっ。ね、菜 穂子もそう思うでしょう?」
「‥‥さぁ?でも、それは無いとおも‥」
「そうじゃなきゃ、私があれだけサービスしてあげたのにあんな態度を取る理由が分からないわ」
「‥‥もう、勝手にして」

もう誰も姫乃を止めることは出来ないだろうと感じた菜穂子は、盛大にひとつ大きな溜息を吐いて前に向き 直った。
今も後ろでは姫乃がまだブツブツ言ってるが、菜穂子はもう気にしないことにした。
ちなみに、クラスの人達は姫乃が何か呟いていても、それは歌を歌っているか何かを暗唱していると考えて いるらしい。
その事実を知ったとき、菜穂子は愛すべき馬鹿とはこいつらのことを言うのかと真剣に感じたのだった。
それと同時に、実際に姫乃が言っている内容を知ったときこいつらはどんな反応を示すのか知りたくてしょ うがなかった。


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