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わがままな姫君



『わがままな宣告』(4)


「浅川くん、部活何処に入るか決まってるの?」

休み時間がくる度に姫乃は皇に話し掛けていた。
初対面の素っ気無さを姫乃は見逃すことが出来なくて、こうして友好を深めようという名目のもと裏では 何が何でも惚れさせてやると意気込んでいるのだ。
そんな姫乃にいくつもの質問を投げかけられて、皇は実の所少しうんざりしていたが一応素っ気無くも律儀 に答えてくれていた。

「‥‥決まってるけど」

返って来た返事に姫乃は目を輝かす。
部活動の話なら、結構引っ張ることが出来ると感じたからだ。

「そうなの?何処に入るのか聞いていい?」
「‥‥テニス部」

そう言われてから、皇の持って来ていた荷物を見直してみると、確かにそこにはテニスラケットが存在した。

「そうなんだ。私もね、趣味程度にならテニス出来るのよ」
「ふぅ〜ん」

机の中からゴソゴソとテニス雑誌を取り出して、ジッとそれに目を通す。
姫乃は自分のことを放って他のものに没頭しようとしている男の存在が信じられなくて、目を大きく見開い た。

(どうしてっ!?何でこの男は私のことを見ようとしないの!?ありえない。本当にありえないことだわっ)

姫乃がさまざまな考えを巡らしているその時に、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。





********





「どうですか?浅川くん攻略のほうは」
「全然よっ。あいつどっかおかしいんじゃないの!?」

あれからもずっと姫乃は皇に話し掛け続けていた。けれど最後の最後まで、皇は姫乃に素っ気無かった。
テニス部まで案内しようか?という姫乃の親切心もやんわりと断られて、一人でさっさと教室を出ていって しまった。
最初のほう、姫乃は真剣に信じていたのだ。恥ずかしさや遠慮からくる素っ気無さだと。
しかし、時間が経つにつれてそういうわけでは無いということに気付き始めた。皇は別に姫乃と向き合うの を照れているわけでも、他の男子に遠慮しているわけでもなくて、本当に興味が無いだけなのだ。
その事実に気付いた瞬間、姫乃は愕然とした。

(この私に手に入らないものがあるだなんてっ!!)

姫乃は幼い頃から欲しいものはすべて手に入れてきた。男だってそうだ。
気に入った男子生徒に狙いをつけて話し掛けたりしていれば、自分に惚れさせるのにひと月もかからない。
なのにどうだ?今回はまったく手ごたえを感じない。こんな事態は生まれて初めてで、姫乃は少し混乱して いた。

「何が何でも、あいつを私に惚れさせてやるわっ」

姫乃の宣言を真横で聞いた菜穂子は、やれやれといった風にひとつ溜息をついた。
それからふと菜穂子は思った。

(なんだか私、最近溜息ばかりついてるような気がするわ)

その溜息の原因はすべて姫乃にあるのだが、菜穂子はあえてそれに気付いていないフリをしていた。気付い てしまったら、もう姫乃についていけないような気がしていたから。
それくらい、姫乃と学校生活を共にするのは大変なことなのだ。

「げっっ」
「‥え、何?」

突然奇妙な声を発した姫乃。その声を聞いて、考え込んでしまっていた菜穂子はハッとして姫乃に視線を 向ける。
すると、そこでは姫乃が表情を凍結させて前をじっと見詰めていた。けれど、それも一瞬のことですぐに表 情を作って目の前の人物に笑顔を見せる。

「奇遇ね。こんなところで何をしているの?浅川くん」
「えっ」

浅川という単語を聞いて、菜穂子は驚いた顔で前を向く。
姫乃の前方には確かに浅川 皇の姿があったのだ。
そのことに気付いて、菜穂子が軽い眩暈を覚えたのはきっと気のせいじゃない。


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