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わがままな姫君



『わがままな恋心』(7)


皇の居場所を知ると、笹谷は興味深そうに姫乃のことをじっと見つめる。
その視線に気付いた姫乃が怪訝そうな顔をして笹谷を見た。

「何?」
「いや? 何でもない」

そう笹谷は言ったけれど、何も無いようには見えなかった。
姫乃はむっとして更に追求する。

「何でもないようには見えない」
「‥‥言ってもいいのかな」
「言って」

苦笑しながら姫乃を見る笹谷に、姫乃は話すことを促した。
その姫乃の視線に観念したようにして、笹谷は小さく笑った。

「何か、イメージ違ったなと思って」
「え?」
「ほら、普段の穂高さんってお嬢様って感じだろ?」
「 !? 」

そう指摘された途端、姫乃は顔を引き攣らせた。
笹谷に言われて漸く気付いた。つい、菜穂子や皇と話すときと同じ口調になってしまっていたと。
恐らく、笹谷の話し方があまりにも普通だったためであろう。
そのせいで、姫乃は菜穂子達と話しているような気分になってしまったのだ。

「あれ? 何か悪いこと言った?」
「あ、いや。別に‥‥」

取り繕うように笑ってみるが、失敗する。
もう、今の自分が情けなくて渇いた笑いしか出てこない。

「皇が転校してきてから、気付き始めてさ。あれ? もしかして穂高さんって猫被ってる? って」

ハハハッ。と笹谷は笑うけれども、姫乃にとっては笑いごとではなかった。

(なんてこと!! 浅川 皇に気を取られすぎてこんな失態を!!)

「お嬢様な感じの穂高さんもいいと思うけど、俺的には今の穂高さんの方が好き。話しやすいしな」
「は?」

にこにこしながら、さらりと問題発言を言ったように思うのは気のせいだろうか?
姫乃は思わず笹谷を凝視する。
今、この人は何を言ったのだろう? そう思いながら見つめていると、さらなる問題発言が笹谷の口から飛 び出してくる。

「あ、皇の情報とか俺に聞いて。協力するよ」
「は? どういう‥」
「え? だって、穂高さん‥‥皇のこと好きなんだろ?」

何言ってるんだよ。と言いながら、笹谷は話続ける。
けれど、私は目の前がチカチカしてくるほどの衝撃を受けていた。

(好き? 私が、浅川 皇のことを? この、私が!?)

「だって、今の穂高さんが素だろ? それが現れ始めたのって皇が転校してきてからだし、よく皇と話して るし」

やめてくれ。もう、それ以上何も言わないでくれ。
そう思う姫乃だが、笹谷はまだまだ続ける。

「未だ他の男子の前じゃお嬢様だけど、皇の前では違うだろ? だから、皇のことを特別視してるのかなぁ と思ったわけだけど‥‥。あれ? 違う?」
「‥‥っわよ」
「え?」

ぷるぷると全身が震えてくる。
ギュッと両の拳を握り締めながら、先程の話を全否定する。

「違うわよ!! 何で私があんな奴のこと好きにならなきゃいけないのよーーっっ!!」
「え、あ、穂高さん?」

いきなりの絶叫に笹谷は目を丸くする。
フェンス越しとはいえかなりの迫力であった姫乃に、笹谷は思わず一歩後ろに下がる。
その時、笹谷は視界の端に今話題となっている張本人がこちらに走ってきている姿を発見した。

「あ」

思わず口から零れ出たその呟きに、姫乃がすかさず反応する。

「何よ!!」
「どうしたんだ?」
「 !? 」

第三者の声に反応して、ばっと振り返る。
そこに皇の姿を見つけて、かぁーと顔が熱くなる。

「あ、あ、あ、」
「はぁ〜?」

意味をなさない声を発し続ける姫乃に、皇は首をかしげる。
しかし次の瞬間、姫乃はビシィっと人差し指を皇につきつけて叫んだ。

「あんたなんか絶対絶対好きじゃないわよーーーっ!!!」

そして姫乃はまた走り出した。
その場に残された皇は、ジーンと痛む耳を抑えながら笹谷を見る。

「何なんだ、あいつ」
「さぁ?」

何故か楽しそうな表情をして、笹谷は皇を見て笑った。





********





「‥‥どうしたの」

菜穂子は教室の入り口に立ったまま、机や椅子に当り散らす姫乃を見て苦笑を浮かべる。

「どうも‥っ、‥‥しないわよっ!!」

散々暴れて気が済んだのか、ぜぇぜぇと肩で息をしながら姫乃は持っていた椅子を手放した。
それから、キッと入り口に突っ立ている菜穂子を睨みつける。

「な、何?」

その視線に戸惑いつつも、菜穂子はそう口にした。
菜穂子に向かって、姫乃は数歩歩み寄った。
それからおもむろに口を開いた。

「言っておきますけどね。私は、浅川 皇のことなんてっ、これっぽっちも好きじゃないわよ!!」
「はぁ〜?」

いきなり何を言い出すのだと、菜穂子は思いっきり眉根を寄せた。
けれども、そんな菜穂子はお構いなしに姫乃は続けるのだ。

「絶対絶対ありえない!! 私があいつを好きだなんてありえないっ!!」

自分がいない間に姫乃の身に一体何が起こったのだろう?
首を傾げながら、真剣に菜穂子は思っていた。
しかし次の瞬間、この机や椅子が散乱している状況を元通りにするのは自分の仕事なのだろうと思うとゾッ とするのだった。


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