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● キミのトナリ --- 1 ●

初めましての言葉は、春の風に邪魔されて消えた。


あの日は入学式だった。

「―――‥‥ここ、‥‥何処?‥‥」

桜の木の下で、私は見事に迷っていた‥‥‥。

「大体、この学校無駄に広すぎるのよ」

今日から通う予定のこの学校は、結構大きな高校で県内でも割と有名な学校である。

「‥‥てかさ、ありえないよね。‥‥普通、迷う?高校の敷地内で‥‥‥」

周りに誰もいないのをいいことに、私は大きな独り言を連発していた。

「う〜ん。でも、アレかな〜。ここ結構綺麗なとこだし、迷って正解?みたいな?」

目の前に広がる桜の木々達を眺めながら、しみじみそんなことを思っていた。もう 今から入学式に出ても遅刻なのに変わりはないので、いっそのこと ここで入学式が終わるまで 花見でもしておこうかと考えていた時だった‥‥


「アレ?‥‥こんなとこで何してるの?新入生でしょ?入学式もう始まってるよ?」


突然背後から話し掛けられて、心臓が飛び上がるかと思った。

「もしかしてさぁ、‥‥‥迷った?」

そう言ってにこやかに笑う目の前の少年は、明らかに自分と同じ新入生だった。

「実は 俺もなんだよねぇ〜。参っちゃうね、こうも敷地が広いとさ」

――――仲間がいたのか‥‥‥。

「ね?そう思うでしょ?」
「え?あぁ、そうだね‥‥」

見るからにマイペースそうなその少年は、場の空気を和ますようなオーラを持っていた。

「このままさぁ、‥‥花見とかしたくならない?この桜見ながらさ‥‥」
「! やっぱり!?そう思うよね!!私もさっき一人でいた時に考えててさぁ〜」

少年は、私の言葉を聞いて嬉しそうに微笑んだ。

「そうなの? 俺達気が合いそうだね。‥‥‥そうだ、君‥‥名前何ていうの?」
「私? 私は、野波 瑞―――」


私は、名前を続けることが出来なかった。


目の前を 突然の春風が通り過ぎっていった。そのせいで、視界が鮮やかな桜色に染まった。

「―――‥‥すごいね、この桜吹雪‥‥」
「‥‥‥うん‥‥」

舞い散る桜をただ呆然と 私達は眺めていた。
この美しさに気をとられて、今まで自分が言おうとしていてことを思わず忘れてしまった。

「―――あっ、終わったみたいだね」
「え?」
「入学式」

優しい笑みを浮かべたまま、彼は私達のいるところとは正反対の方向を指差した。

「あっ、‥‥本当だ‥‥」
「そろそろいった方がよさそうだね。あの人達について行けば、俺達も迷わないでしょ」
「そうだね‥‥」

歩き出した彼は、突然何かを思い出したようにして振り返った。

「そうだ。‥‥俺、神楽 智樹。‥‥同じクラスになれると良いね。じゃあ、またね」

それだけ言うと、また前を見て 歩き出してしまった。

「―――‥‥‥私、‥‥名前全部言ってないじゃん‥‥」


桜吹雪は、まだ 降り続いていた。
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