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心の雪が溶けるまで

小学五年生・夏(1)



ピピッピピッピピッ


目覚ましの音によって眠りの淵から呼び覚まされる。
ごそごそと布団の中から出てきた私は、目を右手で擦りながら目覚ましをパンッと叩いて止めた。

時刻は6時45分。

学校に行くには、今起きないと間に合わない。

「光希っ。起きなさいよ!!」
「はぁ〜い」

朝ご飯の支度をしていた母が、光希を起こすために声をかける。
以前、一度だけ自分でちゃんと起きれるから大丈夫だと母に言ったことがあった。
宣言したその次の日に、母は光希の言ったことを信じて起こしにこなかった。
ちゃんと起きることは出来たのだ。一度は。
けれど、光希は二度寝をしてしまった。
そのことがあったから、母は毎日毎日光希を起こしにやってくるのだった。

「おはよう」
「はい、おはよう」

パジャマ姿のままで私は母のいる1階へと降りていった。

「そこに服置いてあるから着替えてしまいなさい」
「はぁ〜い」

ソファの上に綺麗に畳まれて置いてある自分の服を見つける。
のんびりと着替え始める光希を見て、母はひとつ溜息をつく。

「光希。早くしないと遅れるわよ」
「わかってるよ」

それからすぐ横にある母と父が使っている寝室のドアが少し開いていることに気付く。
子供の親切心でそのドアを閉めに行こうとした。

「アレ?」

閉めようとノブに手をかけた時に、私は不自然なことに気がついた。
父が眠っているはずのベッドのシーツは少しも乱れもせずに、綺麗なままだったのだ。
今日はまだ一度も父とあっていない。
父が仕事に行くのは、光希とほぼ同時刻だった。
会わないのはおかしい。
食卓にはまだついていなかったから、てっきり父はまだ寝ているものだと思っていたのだ。
けれど、その光希の考えに反して父はそこに寝てはいなかった。

「アレェ?」

不思議に思い首をかしげる。
とりあえずドアを閉めて母のもとに戻る。

「お母さん」
「ん?」
「お父さんは?帰ってこなかったの?」

少し母の顔が曇る。
光希はその変化に疑問を感じることはなかった。

「急な仕事が入ったのよ」
「泊まりだったの?」
「そうよ」

母の返事は素っ気なかった。
光希は、その素っ気ない返事をただ単に機嫌が悪かっただけなんだと思った。

「ふぅ〜ん」
「さぁ、早く食べてしまいなさい」

椅子を引いて食卓についた。
今日の朝食はパンだった。
御飯のほうが好きなのになぁ。と思ったけど、私はそれを心の中だけにとどめることにした。

「いただきます」
「はい、どうぞ」

まだ少し機嫌が悪そうな母を前にして、私は黙々と朝食を口に運んだ。
全て綺麗に食べきって、飲み物を飲んで一息をつく。

「ごちそうさまでした」

まだ食べている母を放って光希は立ち上がる。
それから真っ直ぐ洗面所に向かい、歯を磨いて顔を洗った。

「光希。忘れ物ないようにしなさいよ」
「大丈夫〜」

短い髪を櫛で梳いた。
ほんのり寝癖がついているような気がするが気にしない。
この程度ならセーフだろう。
一度部屋に戻ってランドセルを背負う。
それから壁に引っ掛けてあった帽子を被って玄関に向かった。

「行ってきま〜す」
「いってらっしゃい。気をつけてね」

ひょこっと顔を出して見送ってくれる母に手を振って、私は外に飛び出した。


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