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心の雪が溶けるまで

小学五年生・夏(2)



「あっ、みっちゃん来た!!」
「え〜?あっ、ホントだ」

小学生は地域ごとに集まって学校に登校することになっている。
私はのんびりと集合場所である駐車場に向かって歩いていた。
けれど、同じ班の子に見つかってしまったため駆け足でそこへ向かうはめになった。

「おはよ〜」
「おはよう」

集合時間には間に合っていたが、光希以外の班員は大体もう集まっているようだった。

「え〜っと、じゃあ後は舞ちゃんと明菜だけかな」

光希が来たのを確認して、班長である6年の伊藤 和美が声を出した。
和美が言った舞というのは1年生の女の子で、明菜というのは和美と同級生の女の子である。
光希の住んでいる地域は、小学生の人数が多いため男子と女子の二班に分けてある。

「あっ、和美ちゃん。舞ちゃん来たよ」
「ホントに?」
「うん、あっち」

班員の2年生の子が道路の向こう側を指差して和美に教える。
その指先を辿っていくと、確かに舞らしき子がこちらに向かって駆けてきていた。

「ホントだ。じゃあ、あとは明菜だけか」

「ごめんごめん。遅くなって!!」

皆が舞の方に視線を集中させていると、反対側からもう1人の少女がやってきていた。

「明菜っ!!」
「ごめんね。遅くなって」

一応走ってきたらしく、息は少し弾んでいた。

「いや、別に大丈夫だけど」
「あっ、ホントに?ありがとう」

漸く舞も到着し、全員揃ったところで和美が旗を持って前に立った。

「はい、並んで〜」

班長旗を持って、一年生から順番に並ばせていく。
ずらずらーっと並び終えた所で、班長が確認をする。

「はい、じゃあ出発」

班長の一声で、皆が一斉に歩き出す。
班長の後ろに続く皆は、それぞれに今日学校ですることや昨日のことを口々に話していた。
そうしていると、学校までの道のりはあっという間に終わってしまうのだ。

「おはよう」
「おはよーございます」
「おはよーございまーす」

校門の前に並ぶ先生に挨拶をしながら門をくぐる。
このときに、名札を忘れたりするとすこーしだけ小言を言われるのだ。

「今日は、誰も忘れてなかったんだね」

先生の前を通り過ぎたあとに、和美が後ろを振り返って班員に話し掛けた。

「うん。誰も引っかからなかったよ」

それに元気よく答えたのは一年生で、他の子達には和美の声は届いていなかったようだ。
それぞれに好き勝手喋り捲っている。
和美は、特にその様子を気にしたわけもなく返事を返してくれた子に「そっかぁ」と答えていた。


********


今日の1時間目は算数だった。

「みっちゃんっ」
「何?」
「計算ドリルやってきた?」

教室に入ったところで、光希はそう声を掛けられた。
声をかけに近寄ってきたのは同じクラスの白石 奈瑠だった。
奈瑠の言葉にハッとしたように光希は目を丸くした。

「あっ!!忘れてたっ」
「わぁ。みっちゃんも忘れたんだって」

光希の言葉を聞いて奈瑠は、さっきまで喋っていた友達にそう告げる。
私は慌ててランドセルを自分の机の上に降ろして、奈瑠と他の友達が集まっているところへ駆け寄る。

「え〜、ねぇ。皆はもうやったの?」

光希がひょいっと顔を覗かせてそう問い掛ける。
皆が囲んでいた机に座っていた女の子がパッと顔をあげて、光希を見る。

「ううん。やってない。今急いで皆でやってるとこ」
「あっ、じゃあ皆もやってないんだ」
「うん。そう。だから、みっちゃんも早くドリル持ってきてしなよ」
「うんっ」

私はもう一度自分の席に戻りランドセルを開けて中から計算ドリルを探し出す。

「あれ?」

けれども光希は、手をランドセルに突っ込んだまま首を傾げる。

「あれ?」

それから、ランドセルを覗き込んで一冊ずつ持ってきた教科書を調べる。
教科書と教科書の間に計算ドリルが挟まってたりしないかと思いながら。

「もしかして‥」

嫌な予感に冷汗をたらしながら最後の教科書を手に掴む。

「‥‥ない」

私は、ポツリと呟いて計算ドリルを忘れてきたことを痛感する。
とぼとぼと友達の輪に戻り、忘れてきたことを告げる。
そのことを聞いた友達は、一斉に馬鹿コールを光希に捧げた。

「忘れたものはしょうがないでしょっ」

私はただ、開き直って笑うしかなかった。
算数の授業開始直後には、そうも言ってられなかったけれど。

「忘れ物した人は、その場で立ってなさい」

静かにそう先生に告げられて私はガタッと椅子を鳴らしながら立ち上がった。
そして、周りを見渡す。

「今日は、水城さんだけみたいね」

いつもなら数人いるはずの忘れ物者が、今日に限って光希の他にはいなかった。


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