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心の雪が溶けるまで

小学五年生・夏(3)



「今日はついてなかったね」
「うん。ホントに」

学校からの帰り道、幼馴染の麻奈と一緒に今日のことについて話しながら歩いていた。
麻奈とは、1・2年生のときは同じ登校班だったのだが、途中で引っ越してしまったために朝一緒に登校す ることは無くなってしまったのだ。
けれども、家が割りと近いことに変わりは無かったので毎日どちらかに用事が無い限りは一緒に帰っている のだった。

「でも、忘れたのが光希ちゃんだけっていうのも珍しかったよね」
「そうっ!!ホントにっ。何で私だけ?って感じじゃない?絶対嘘だよアレ」

1時間目の算数のときことを思い浮かべては、たった一人だけだったという事実に虚しくなる。
憤慨する光希を麻奈は笑いながら見ていた。

「いや、ホントに。だって、ありえないありえない。いつも皆忘れてるじゃん。何で今日に限って私だけ? コレって絶対新手のイジメだと思う」
「新手のイジメって‥」

呆れつつも楽しそうに光希の話を聞いている麻奈。
光希は身振り手振りで今日のことを麻奈に訴えていた。
そして、光希が動くたびに赤いランドセルがガタガタ揺れていた。

「あ〜、明日は忘れもの無かったらいいのになぁ」
「光希ちゃんは、時間割前の日にしてる?」
「ううん。朝」
「前の日にしたらきっと忘れないよ。朝慌ててするから忘れるんじゃない?」
「う〜ん、でも‥前の日にするの面倒臭いんだもん」

光希はそう言って頬をぷぅと膨らませる。
それを見て、麻奈は一瞬目を丸くしたが次の瞬間ケラケラと笑い出した。

「光希ちゃんってば変な顔〜」
「うるさいなぁ〜」

光希はそれを聞いてムッと眉を顰めたけれど、すぐにプッと吹き出して笑い始めた。

「アハハハッ」
「ヘヘッ」

家までの道のりでは、今日も賑やかな笑い声が響いていた。
通りすがりのおばさんたちは、不快に感じて眉を顰めるか、微笑ましそうに眺めているかのどちらかだった が、今の光希や麻奈にはおばさん達にどういう目で見られていようが構わなかった。
毎日毎日が楽しくて楽しくて仕方なかった。
それは、光希達の笑顔を見れば誰でも分かることなのだろう。


********


「ただいまぁ」

家の玄関をくぐり、帰ってきたことを知らせるために声を張り上げる。
いつもならすぐに返ってくる筈の「おかえり」という言葉がなかなか聞こえてこない。
おかしいと思い首を傾げながら、光希は靴を脱いで家にあがった。

「‥お母さ〜ん?‥いないの?」

薄暗い家の中、テレビの音も聞こえない。
ゆっくりとひとつひとつ部屋を確認しながら母の居所を捜していた。

「お母さ〜ん?」

リビングの扉をそっと開けると、そこには探していた母の姿があった。
母の姿を見つけた光希はホッとして、いつの間にか入っていた力を全身から抜いた。
一歩リビングに踏み込んで、明かりを点けるために電気のスイッチを押す。

「どうしたの?電気も点けないで」

てくてくと母のもとに歩み寄りながらそう声をかけた。
それに対して、母は光希にチラリと視線を送っただけでまた下を向いてしまった。

「‥‥帰ってたの」

ボソリと呟いた母。
どうやら光希の帰宅に気付いていなかったようだ。
明らかに元気の無い母を不審に思い、光希はそっと顔を覗き込もうとした。

「お母さん?」

しかし、母は光希が顔を覗き込もうとした瞬間にパッと顔を上げて目を合わさないようにした。
それから勢いよく立ち上がりニパッと笑った。

「さて、早く弁当箱出しなさい。さっさと洗っちゃうから」
「え、う、うん」

いきなり元気よく声を発した母に少し驚いて、光希は一瞬言葉を無くす。
けれども、いつもの笑顔を見せてくれた母に安心して光希もニッコリ笑ったのだった。


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