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聖なる夜はあなたの傍で(2)



第二夜 『バカ女』 side 佐伯 彼方


樋田 琴美。
俺が知っているなかで一番のバカ女。

「はよ」
「あ、おはよう」

俺と樋田は席が前後の関係。俺が後ろで、樋田は目の前。
通りすがりに挨拶をすると、席に着いている樋田はちょっと見上げてからニコッと笑って返事を返してくれ る。
けれど、視線はすぐ窓の外へ。
ドサッと荷物を机の上に下ろしながら、俺は今日も思うのだ。

ああ。今日も、こいつは不毛な恋をするのか。と‥‥

俺の親友と幼馴染の樋田。そして、その親友を好きな樋田。
だけど、お前は知ってるか?尚には、好きな奴がちゃんと居るってこと。
ちなみにそれは、お前じゃない。お前じゃないんだよ。

「‥ぁ‥」

小さな声を漏らして、樋田は目を輝かせて窓の外を見つめる。
その様子を見て、俺もチラリと外へ視線を向ける。

「‥‥‥‥」

窓の外には俺の親友・古賀 尚。樋田の想い人。
もう一度樋田に視線を戻してから椅子に座る。

いつもと同じ光景だ。朝は、樋田が窓の外に尚の姿を探すところから始まる。
そしてそれを、俺が後ろからそっと眺めてるんだ。

バカな女。俺の想いに気付きもしないで、報われない恋にばかり目を向ける。

次の瞬間、樋田はパッと視線を窓の外から外した。
ギュッと肩を強張らせて縮こまる。たぶん、手は握り締められているのだろう。

「 ? 」

不思議に思った俺は、もう一度樋田の見ていたところに視線を向ける。
そして、そこで見た光景を知り「ああ」と納得する。

尚は女性徒に手紙を貰っていた。
こいつはその光景を出来れば見たくなかったのだろう。
だけどな、いつまでも目を逸らしていられると思うなよ。
いくらお前が尚のことを好きでも、あいつはお前のことそんな風には見てないんだよ。
ずっと前に聞いた、尚にとってお前は一体どういう存在なのかということ。
あいつはその時こう答えた。

『琴美は、歳の近い妹なんだよ。寂しがり屋なのに、強がっててさ』

ほっとけないんだ。と言って微笑んだ尚。
俺は、一瞬尚が気付いていないだけで、樋田のことを好きなんじゃないかと思った。
だけど、尚が樋田のことを妹だと言っている限り、一生恋愛感情には発展しないのだろう。
なら、気付かずにいてくれるのならばそのままでいてもらおうではないか。

そして尚は、樋田への淡い恋心に気付かぬまま他の奴を好きになった。
どうかどうかこのまま樋田への想いに気付かないで居て。他の奴を好きなままで居て。
そうすれば、樋田の想いは確実にあいつへは届かないだろう?
今はないチャンスが、俺にも訪れるかもしれないだろう?
俺は樋田が好きなんだ。この一つの恋に一途な樋田が好きなんだ。


俺は酷い奴かな。
樋田が、尚に振られることを心の底から望んでいるのだから。





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