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雪降る街の上で

(1)



もう目と鼻の先に、クリスマスが近づいて来ていた。
クリスマスという恋人同士には欠かせないイベント。なら、恋人のいない人々は一体どうするというのか?私は毎年、ずっとそのことばかりを考えていた。

「美弥子〜。私の頼み聞いてくれない〜?」
「‥‥何?」

両手を目の前で合わせてお願いのポーズをとる、友達の美紀。去年の今頃も確か同じように朝から私にあることを頼みに来ていたような気がする。多分、私が予想している返事が返ってくるのだろうとは思っていたけれど、こんな近くで話し掛けられて無視するわけにもいかず、とりあえず何のことかだけ聞いてみることにした。

「合コンに出てくれないかなぁ?メンバーが一人足りなくなっちゃったの!!」
「何で?誰か、彼氏でも出来た?」

今のこの時期は、一人で寂しく過ごすのが嫌な女子生徒が、彼氏を作ろうと必死になっているときだった。美紀のいう合コンというのは、クリスマス・イブ当日、一人身同士が集まって新たな出会いを求めようという名目の慰めあい会だった。

「そうなのよ!!何か、昨日突然メールが来てさ。『ゴメンネ。彼氏出来たから、合コン行けなくなっちゃった♪』だって!!何よ何よっ、一人で抜け駆けしちゃってさっ!!」
「あぁ、そう」

興奮する美紀を冷静な目で見つめながら、視界に入ったのは今廊下を通った一人の男子生徒。一気に鼓動が高まるのを感じながらも、私は表情には決して出さないよう心がけていた。と言っても、もうこんな気持ちのセーブぐらい楽にこなせるようになっている私に、改めて心がける必要なんて無いのかもしれないけど。

「だから!!一人抜けちゃったから、美弥子に来て欲しいの!!」
「でも、私 興味ないし」
「そこを何とか!!」
「行くの面倒くさいし」
「何か今度奢るから!!」
「‥‥違う子誘ったら?」
「みんな彼氏がいるから無理なの!!」

「‥‥‥好きな人がいるから無理だって言ったら?」

驚いたように目を見開く美紀。でも、次の瞬間にはいつも通りのおどけた笑いをして、何の冗談?と言った。

「美弥子に好きな人いるなんて聞いたこと無いよ」
「言ってないもの」
「まぁ、冗談はさておき。本当にお願い!!ちょっとだけ、最初だけ居てくれるだけでもいいから!!ねっ!?」
「‥‥‥‥」

私に好きな人がいるとおかしい?友達だからって、何でも言わなきゃダメなの?でも、この恋はそんなに簡単に話せるものじゃないの。もしも声に出して言葉にしようものなら、惨め過ぎて、悲しすぎて、私はもうあいつの顔を見ることが出来ないかもしれない。

「本当にゴメン。私、合コンとかって苦手なんだ」

まだ一生懸命説得しようとする美紀を無視して、私は席を立って外に出ようとした。その時、美紀がいやに真剣に鋭く私の名前を呼んだ。

「美弥子っ!!‥‥もしかして、ホントに好きな人いるの?」
「えっ?」
「‥‥瀬能 直志、なんて言わないよね?まだ、諦めきれてない‥‥なんてことないよね?」

黙り込む私に、美紀は何かを察したようだった。何も言わずに教室を出る私をそれ以上を引きとめようとはしなかった。


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