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雪降る街の上で

(3)



そしてやって来たイブの日。今日の午後には、私自ら参加することにした、合コンがある。あの日 廊下で会ってから、私はあいつと話していない。話せば、決心が揺らぐような気がした。やっぱり忘れられないと思ってしまうかもしれなかった。でも、こんなことを考えている時点で、すでに忘れられていないと感じているということなのかもしれない。

「美弥子、本当にいいの?」
「いいの。じゃあ、またあとでね」

終業式が終了し、教室で美紀に別れを告げたあと、私はまっすぐ家に帰ることにした。いつもと同じ帰り道、でも、何かが違った。今日、あいつを想い続けた今までを忘れることになる。決心した思いを今更変える気はないけれど、チクリと痛む自分の心を隠し切ることは不可能だった。忘れたくないと、諦めたくないと、私の心が泣いている。でもね、もう諦めなきゃいけないよ。だって、私はあいつにとってただの幼馴染でしかないんだから。

家に帰宅した私は、身支度を整えたあと、財布と携帯を少し小さめの鞄に入れて、また家を出た。これから、美紀と待ち合わせている場所に向かうのだ。擦れ違う高校生や社会人、男女で歩く二人を見つけるたんびに、あいつとその彼女の顔が浮かんでは消えた。未練たらたらの自分が酷く惨めだった。報われないと知りながら、どうしてこんなにもあいつのことが好きなのか。誰も答えてはくれないけれど、何か答えが欲しかった。

そろそろ待ち合わせ場所につくというその時、私は自分の目を疑った。どうしてこんなところに?そこには、あいつがいた。私の目に映るのを見る限り、どうやらあいつは一人のようだった。彼女と待ち合わせだろうか?待ち合わせ場所が一緒だなんて偶然、私はいらなかった。どうして今このときに、決心が揺らいでしまうような偶然が起きるのか。

「っ!?」

私の視線に気付いたのか、あいつが顔をこちらに向けた。その瞬間に交わる二つの視線。石にでもなったかのように、私の体は硬直してしまった。今すぐこの場から逃げ出したい。けれど、気付いた時には、もう目の前にあいつはやって来ていた。息を飲む私、どうかこの緊張があいつに伝わりませんように。

「な、何してるの?こんなところで、彼女と待ち合わせ?意外ね、直志が人を待つようには見えなかった」

「待ってたんだよ。お前を」

あいつの口から発せられたその言葉を理解することが出来ずに、私はただ呆然とあいつの顔を見上げていた。

「彼女とは別れた。ここで待ってたら、お前が来るって聞いたから ここで待てたんだよ」
「聞いたって、誰に‥‥。彼女と別れたって‥‥何で」
「お前の友達に聞いた。えっと、春日さんだっけ?」
「‥‥美紀‥?」
「そう。‥‥お前、今聞いたよな。何で彼女と別れたのかって」

いやに真剣なあいつが少し怖かった。こんな顔をしているのを私は今日初めてみたような気がする。

「お前が好きだからだよ」

突然のその告白は、私を驚かせるのには充分すぎるものだった。何を考えているのか、何の冗談なのか。それだけしか考えられなかった。直志が私のことを好き?そんなはずはない。だって直志に、彼女が途絶えた期間はほとんど無いはずだ。現に最近までは、ちゃんと彼女がいた。疑うなというほうが無理な話だろう。

「何、馬鹿なこと言ってんの?冗談も度が過ぎると笑えないわよ」
「冗談なんかじゃないっ!!俺は美弥子がずっと好きだった。幼いときからずっと」
「‥‥はいそうですかって、私が信じると思ってる?あんたの今までの態度を見てるとどう考えても私のことが好きだとは思えないわよ!!」

途端にばつの悪そうな顔になる直志。ほら、やっぱり私のことなんか何とも思ってないんじゃない。冗談だと分かっていても、少し嬉しいと感じてしまった私がとことん馬鹿だと思った。

「あれは、美弥子への当てつけだよ」
「はっ?」
「誰といても、何をしても、俺のことを幼馴染としか感じてくれない美弥子に嫌気がさして‥‥彼女を作ってみたんだ。けど、それもことごとく失敗に終わったな。お前は、やきもちを妬くどころか応援なんぞしてきやがったから」
「それはっ!!そうでもしないとあんたの前で普通にしていられなかったのよっ!!」

驚いたような顔をする直志を前に、しまったという顔をして私は額に手を当てた。今なら、穴があったら迷わず入って蓋をすると思う。

その時、視界の端に白いものがチラリと見えた。何?と思って、少しだけ顔を上げてみると‥‥

「‥‥雪‥?」

そう思うことが出来たのも一瞬だけで、気がついたときには直志の腕の中にすっぽりとおさまっていた。苦しいほど強く抱きしめられて、私は抗議の意味を込めて胸を精一杯叩いた。少しだけ弱まったその腕。それを感じて視線をあいつに合わせてみる。

「美弥子、好きだ。お前のことが好きなんだ。俺じゃ、お前の彼氏にはなれないのか?」

直志の切なげなその顔と声をこれ以上冗談だとは思えなかった。なら、私の答えは決まっているじゃないか。昔から、私の答えは決まっていたよ。ずっとずっとこうなれる日を夢見ていたよ。上手に言葉にする自信が無くて、私はただギュッと強く直志に抱きついた。抱きしめ返されるその腕に幸せを感じながら、微かに視界の端に映る雪を見つめていた。


***あとがき***
本年度のクリスマス企画小説です。楽しんで頂けたなら幸いです。
最後の方、ちょっと無理やり終わらせたチックになってしまったのが残念。
もう少し詳しく書ければ良かったんだけど、時間がちょっと‥‥(汗
今度からはもう少し余裕を持って、じっくり話を進めたいと思います。
というより、来年もこのサイトは経営されているのか!?
いや、頑張って存続させていきます(気合い)。うん、頑張ろう!!
それでは最後にメリークリスマス!!お付き合いありがとうございます!!
2004.12.25 管理人:風花


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