モクジ

● 空を見上げて  ●

尚人が北海道に引っ越してから三ヶ月が経った頃、やっと初めての手紙が送られてきた。


一ヶ月が過ぎた頃、私は毎日のように友達に文句を言っていた。
「もう一ヶ月も経つのに手紙来ないのよ!?何考えてんの!?尚人の奴!!」
「もう待つのはやめてさぁ、夕夏から送ればいいじゃない」
「送れるもんなら、もうとっくに送ってるわよ!!」
「?」
「送りたくても送れないの!!だってあいつ、引っ越す日にち知らなかった上に、どこに引っ越すかも直前まで分かってなかったのよ!?だから、住所も電話番号も分かんない。それに、尚人携帯持ってなかったし・・・」
「マジ?」
「こんなことで嘘ついてどうするのよ!!」

ちょうど今から一ヶ月と二週間前・・・・

「はっ?今何て言ったの?」
「ん〜?だから、どうやら俺もうすぐ引越しするらしいって」
「本当に?冗談とかじゃなくて?」
「うん」
「なんで!?どこに!?いつ引越しするの!!」
「さぁ?まだ何も聞いてないから」
「ちょっと〜しっかりしてよ!!なんでそんなに呑気なの!?遠恋になるかもしれないのに!!」
「そうだけど。手紙書くし電話もするからさぁ、大丈夫だろ」
「だって!!まだ住所も電話番号も分かんないんでしょ!?」
「分かったらすぐ教えるって」
「絶対だからね!!」

しかし、その二週間後・・・・

『ゴメン。俺今から出発するって』
「は?今から!?どこに!?」
『北海道』
「北海道!?ねぇ、住所は!?」
『本当にゴメン。手紙はこっちから送るから、それまで待ってて。今時間ないんだ』
「え?ちょっと・・」
『ゴメンな。じゃあ電話で悪いけど、元気でな』
「待ってよ!!ちょっとっ・・」
プツッ
「切れた・・・」
かかってきた電話は一方的なもので、さようならも元気でねも言えないまま、切れてしまった。

そして、現在にいたる。

「あいつ一体この一ヶ月何してたのよ!!これだけ時間かけといて、たいしたこと書いてなかったら呪ってやるんだからっ」

『夕夏へ
手紙遅れてゴメン。
俺はこっちでもまぁ元気にやってる。
夕夏も元気か?
やっぱり、いつも近くにいた夕夏が傍にいないのは寂しい。
夏休みになったら、必ずそっちに遊びに行くから、それまで元気でな。
尚人』

「・・・・・」
三ヶ月かけたにしては、あまりにも短い手紙。
でも、何度も何度も書き直したあとのある手紙。
空を見上げて夕夏は一人つぶやいた。
「手紙とか作文とか書くの苦手だったんだっけ」
どれだけ悩みながらこの一通の手紙を書いたんだろう?
そのことを考えるだけで、夕夏の胸はいっぱいになった。
モクジ
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