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ただ君の幸せを‥‥。

10.夢で見る人



「なぁ、俺 甘いもん苦手なんだよ」

心地よく響くその声は、一体誰のもの‥‥?

「ちょっと待てよ!!走んなくても 店は逃げねぇよ!!」

私は‥‥この声を知ってる?
うん、知ってる。知っているはずなのに、思い出せない。

「留美?どうしたんだよ?」

顔を見ようと思っても、眩しすぎて 顔だけが見えない。

ねぇ、あなたは‥‥誰‥?


ピピピピピピッ

目覚ましの音によって、眠りの淵から私は目を覚ました。

「また、同じ夢‥‥」

最近よく見る夢。
誰かの手を引っ張って歩いたり、走ったり‥‥。
その誰かの背中を見ながら歩いてる夢。
目が覚めてからその夢を思いだそうとしても、詳しくは思いだせない。
ただ、夢の中の私は‥‥すごく‥幸せそうだった。

「留美〜?起きてるの〜?」
「起きてる〜!!」

一階から聞こえる母の声。
慌てて私は 制服に着替えて鞄を手に下に駆け下りた。

リビングに駆け込む私を見て、少し呆れた顔で小さくため息をついたお母さん。

「留美。‥‥もう少し落ち着きなさい」
「‥‥は〜い」

毎日がすごく楽しくて、今のところ何の不満もない。
最近 彼氏も出来たし。すごくいい友達もいるし。
これ以上に幸せなことってないよね?
でも、一つだけ‥‥たった一つだけ気になることがある。

それは、夢で見る 一人の男の子のこと。

********

「留美!おはよう」
「おはよう。沙織」

教室に入って席に着いた直後に話し掛けてきた私の親友・宮永 沙織。
沙織とは、中学からの付き合いでケンカをすることもあったけど ケンカするほど仲がいいと言うように、本当に仲がいい。

「そうだ!沙織 聞いてよ」
「何?何か嬉しそうだね」
「うん!!実はね、私 達也君と付き合うことになったんだ!!」

「―――‥え‥‥?」

突然静かになった教室。
驚いた表情のまま 固まっている沙織。
私に注目しているクラスメート達。
私には、何が起こっているのか分からなかった。

ガラッ

「おはよう。ってアレ?何でこんなに静かなんだ?」

教室に入ってきたのは、和樹君だった。
様子のおかしいみんなを首を傾げながら見回して席に着いた。

「なぁ。どうしたんだ?」

近くの席に座っている男子に話し掛けた和樹君。
私は少し離れたところから その様子を見ていた。

「あ‥‥、実はさ 羽田が‥‥達也と付き合いだしたって‥‥」

遠慮がちにそういった男子生徒。
それを聞いて「あぁ」と頷く和樹君。
それから 私の方に向き直って笑ってくれた。

「よかったな。上手くいったんだ」

でも、そう言って笑った和樹君の顔が 少しだけ悲しそうに見えたのは 私の気のせいだったんだろうか‥‥?
「ありがとう」
そう言おうとした私の声を遮って話し出したのは、目の前にいた沙織だった。

「立石君‥‥知ってたの!?」
「あぁ。相談されたからな‥‥」

私にはよく分からなかったけど、沙織は確かに怒っていた。

「‥‥斉藤君は、立石君の友達でしょ!?どうして!!」
「宮永。俺は、関係ない‥‥だろ?言っただろ?
俺のことは、何も言わないって」

沙織は何か言いかけて、でも言えずに口を閉ざした。

「何も知らないんだ。だから、いいんだよ。
それに、達也ともちゃんと話したから‥‥誰も 気にしなくていいんだ」

何を言っているのか、私にはちっとも分からなかった。
ただ分かっていたのは、和樹君が少し辛そうだということと 沙織が何かに対して怒っているということ。
あと、クラスのみんなの様子が 少しおかしいということ。

どうしてかが 分からない。
和樹君の記憶だけが無いのと 何か関係があるのだろうか?
でも、和樹君は言ってくれた。

『俺達は、友達だよ。結構 仲良かったんだ』

信じて‥‥いいんだよね?何も、間違ってないんだよね?
なら、どうしてみんなの様子がこんなにもおかしいの?

私が事故に遭って、変えてしまったことは 一体何なのだろう‥‥?
小さな疑問が、私の中に芽生えた。
けど、その疑問に答えてくれる人がどこかにいるだろうか?


否、誰も答えてはくれないのだろう。
確信に近いものを直感的に私は感じていた―――――。


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