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ただ君の幸せを‥‥。

11.想う気持ち



留美が事故に遭ったと知ったとき、私はすぐに立石君のところに向かった。

「立石君!!留美がっ留美がっ、事故に遭ったって‥‥本当なの‥‥?」

答えは、聞かなくても分かっていた。
立石君の周りを纏う空気が、答えを語っていた。

「あぁ。‥‥本当だよ」
「‥‥‥そんな」

その時の立石君の表情は、きっと忘れることは無いと思う。
それくらい いつもの立石君とは違っていたんだ。

その日 私は、友達数人を引き連れて留美を見舞いに行った。

「留美!!」
「えっ?‥沙織!!」

病室に入り、私はすぐに留美に駆け寄り抱きついた。
思ったより元気そうで、すごく安心した。

「もう。立石君に聞いた時は本当にビックリしたんだからね!!」
「ごめんね、心配かけて」
「いいよいいよ。留美が無事なら‥‥それでいい。それにね、私達より 立石君の方がよっぽど心配だったと思うよ」
「え?和樹君?」

その時感じた違和感。
留美は 立石君のことを「和樹」と呼んでいたはずなのに、今‥‥「和樹君」って言った?

「何で和樹君がそんなに心配するの?そりゃあ、それなりに心配しててくれてたけど‥‥」
「ちょっちょっと待って。何で?って、だって和樹君は留美の‥‥」

「仲の良い友達でしょ?」

開いた口が塞がらないというのは、こういうときのことを言うんだろうか‥‥。
友達?留美と立石君は恋人でしょ?何言ってるの?

「それよりさ‥‥」

そう言って笑顔で友達と話出した留美を、私は呆然と眺めていた。

********

「ちょっと!!立石君!!」

次の日 学校に行った私は、すぐに立石君のところに行き どういうことか問いただした。

「昨日、留美のところに行ったんだけど‥‥立石君のこと‥‥友達って‥」

少しざわつきだした教室内。
切なげに顔を歪めた立石君。

「‥‥覚えてないんだよ。俺のことだけ‥‥」
「―――‥う‥‥そ‥‥」
「‥‥嘘じゃない。嘘なら‥‥良かったのにな」

立石君を見ている限り、冗談を言っているようには思えなかった。
じゃあ、留美が立石君を忘れてしまったというのは 本当のことなんだろうか?

「言って‥‥ないの?」
「‥‥何を?」
「何をって‥‥、留美と付き合ってること」

留美は言っていた。
自分と立石君は、仲の良い友達だと‥‥。
つまりそれは、自分が立石君と付き合っていることを知らされていないということなのだろう。

「それなんだけどさ。言わないで欲しいんだ。留美に、俺と付き合ってたこと‥‥、俺も 留美に言うつもりはないから」

ざわつきだす教室。
教室にいた誰もが、立石君の言葉に耳を傾けていた。

「留美は、俺との思い出‥‥何も 覚えてないから‥‥。言って、混乱させるようなことはしたくない。だからさ、みんなも‥‥黙っていてくれないか?」

「そんな‥‥」
「―――‥頼むよ」

私を含めて、誰も 何も言えなかった。
ただ、立石君の言葉を聞き‥‥見守ることしか出来なかった。

********

一年前、確かにあいつはそう言った。
私だけじゃなくて、
留美以外のすべての人が あの日のことを知ってる。

「だからって‥‥だからって‥」

留美と斉藤君が付き合うのを、
黙って見ていられるわけないじゃない。
斉藤君は、立石君の友達なのにっ。
なのにどうして、友達の彼女と付き合えるの?

「斉藤君っ!ちょっと、話たいことがあるのっ!!」

私は、斉藤君を見つけた途端 腕に掴んで人気のない場所まで引っ張って行った。


「ちょっと、宮永どうしたんだよ?」

問い掛けてくる斉藤君を睨み上げ、私は声を荒げながら言った。

「ねぇ!どうして、留美と付き合うの!?斉藤君、立石君の友達でしょ!?何でそんな無神経なこと出来るの!!」

びっくりしたような顔をした後、「そっか、そのことか」と斉藤君は呟いた。
私の怒りは、一向に収まらない。
やけに冷静な斉藤君を見て 余計に腹が立った。

「何も思わないの!?友達が辛い思いしてるのに!!自分がいいなら、立石君はどうだっていいの!?」
「どうでもよくなんてないさ!!」
「―――‥!?」

急に大きな声出した斉藤君に驚いて、私は言葉に詰まってしまった。
初めてだったのだ。斉藤君が怒鳴ったのを聞いたのは‥‥。
斉藤君は基本的にすごく穏やかな人で、怒鳴ったところを見たことは一度もなかった。
前に誰かが、斉藤君はもの凄く不良だったんだと噂していたけど それはきっと嘘だと誰もが言っていた。
所詮、噂は噂でしかないんだと。
その斉藤君が、怒鳴ったのだ。
私じゃなくても、きっと驚いたことだろう。

「どうでもよくなんてない。俺だって、どうしていいのか分からなかったんだ。でも、和樹が言ったから‥‥。 上手くいくことを祈ってるって、俺のことは気にしなくていいんだって‥‥」

知っていた。斉藤君が、留美のこと好きなこと。
それでも、留美と立石君が付き合いだした時‥‥斉藤君は自分のことのように喜んでいた。

「俺、あいつに何もしてやれなくて‥‥。何かしてやりたいのにさ‥‥実際には何も出来ない」

それは、私も同じだった。
留美が本当に立石君のことが好きだったのを知っていたから‥‥、今更ほかの人なんてって思っていた。
だから、私は立石君に腹を立てているし 目の前の斉藤君にも腹を立てていた。
二人に上手くいって欲しい。
でも、そのために私は何をすればいい?
留美は、ほかの人を好きになってしまったのに‥‥。

「何も出来ない自分が、唯一 出来ることだと‥‥そう、思ったんだ。和樹の代わりに‥‥留美ちゃんを守る」
「―――‥え?」
「留美ちゃんのことが好きなのは本当。でも、俺は和樹の隣で笑ってる留美ちゃんが一番好きなんだ。 だからさ、いつかまた‥‥その日が来ることを信じて俺はその日まで 留美ちゃんを守ることを決めた」

斉藤君は空を見上げてこう言う。

「信じ続けるよ、俺は‥‥誰よりも。留美ちゃんが和樹のことを思い出して、 また あの頃と同じ日々が送れるようになることを‥‥」

切なげに微笑みながら、斉藤君は私に言った。

「だから、俺のこと‥‥その日まで 認めてくれないか?留美ちゃんの彼氏として」

何も出来ない無力な私は、ただ黙って頷いた。


私も信じよう。
留美が立石君のことを思いだして、またあの頃のようになれることを‥‥。


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