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ただ君の幸せを‥‥。

12.消えない痛み



留美と達也が付き合い始めて一ヶ月が経った。
これでよかったんだ。
その気持ちには、何の偽りもない。
自信を持ってそう言い切れる。

でも、あの二人を正面から受け止めることは、まだ 出来ないでいる。
自分から達也に頼むと頼んだくせに、頼んだ本人が現実をいまだに直視出来ないでいる。
情けない。そう、言われてもしょうがないよな。
自分でも、情けないと思う。

記憶を無くした留美。
その留美に過去を告白しない自分。

留美の重荷になりたくない?
だから俺は、過去を告白しなかった?


そうじゃない。そうじゃないんだ。
本当は分かってた。
留美が俺のことを覚えてないと知った時点で、気付いてた。

俺は‥‥逃げていたんだ。

俺との思い出を何もかも忘れてしまった留美に、真実を話して拒絶されたら?
そんなことはありえないとただひたすらに否定されたら?
真実を告げてしまったせいで、過去を思い出すどころか友達にさえなれなくなってしまったら?

そんな考えが、一瞬の内に脳裏を巡って‥‥俺の脳に指示を与えたんだ。

『留美に俺との関係を絶対に話すな』

何てバカな考えを持ってしまったんだろう。
たった一瞬でも、こんな考えを持ってしまった自分が嫌いだ。
留美を信じてる。
真実を話したからといって拒絶するような子じゃない。
元のようにはなれなくても、友達としては受け入れてくれたはずだ。

そんなことは、充分過ぎるほどよく分かっていたはずなのに。
俺の心は弱かった。
そして今も、弱い心に変わりはない。


留美の幸せを近いようで遠い位置から見守ること、それは 俺にとってかなりの勇気が必要だった。
友達というある意味素晴らしいベストポジションを、俺は無事手に入れることが出来た。
だが、友達はいつまでたっても友達なんだ。
一度友達と認識されてしまうと、それ以上になるのはなかなか難しい。
俺の場合、今までの積み重ねがない分 仲のいい友達になるのでさえも難しかった。
ある日、留美から達也のことで相談を受けた時‥‥あぁ。恋の悩みの相談を受けるほど 俺は信用出来る友達になれたのか。と安心した。
そう思った反面。
恋の悩みが平気で出来るほど、俺は恋愛対象からはずされているのか。と悲しくなった。


もうすっかり季節は夏になり、一週間後には夏休みに入る。
きっと留美と達也は一緒に勉強したりするんだろう。

休みの間に、俺の弱い心が少しでも強くなればいい。
たった一ヶ月でこんなに弱気になっていたら、同じ大学に行ったときどうするんだ?
強くならきゃいけない。
一度決めたことを、今更違えちゃいけない。

留美の幸せを願うことを誓った。
達也も俺の期待に応えてくれた。


叶いもしない願い事を、もう今更願う気はない。

なら、俺がとるべき道はやっぱり一つしかないじゃないか。

留美の恋を応援する。留美と達也のことを応援する。

まだ少し、二人の姿を見るのが辛いけど‥‥。
休みの間にちゃんとけじめをつけるから、二人の前でも笑っていられるようになるから。


お前達も、これから先‥‥別れるなんてことは 言わないでくれよな?


きっと何年経っても、この胸の痛みは消えないと‥‥それだけは断言出来るけれど―――。


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