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ただ君の幸せを‥‥。

14.指輪2



春から夏に変わり、あっという間に夏休み。
高校三年生、今は何かと忙しい時期だった。
もちろん俺も例外じゃなく、今日も朝から予備校に行くことになっている。


「‥‥まだ、早いかな」

右腕にはめた腕時計。
それを一度軽く確かめて、それから一人ボソッと呟く。

同時に出てきたのは 何故か溜息。
理由は分かっていた。きっとそれは罪悪感。
自分で決めたことだけれど、やはり留美ちゃんと付き合うのには少し今でも抵抗がある。

ふとした瞬間に、留美ちゃんの後ろに和樹の姿がちらつくのだ。
まるで、留美のそばには俺がずっといるはずだったんだと言うかのように。

でも、それはある意味実現していた。
実際 今も留美ちゃんの側には和樹がいる。
留美ちゃんは知らない。
けれど、和樹は留美ちゃんの側に存在しているのだ。


『指輪』という形に姿を変えて―――。


留美ちゃんはいつも、チェーンにシルバーの指輪を通して首からぶらさげている。
最初、どうして指輪をわざわざチェーンに通しているんだろうと思っていた。
そして、ある日留美ちゃんに聞いてみた。
どうして指輪を首からさげているんだ?と。
すると留美ちゃんはこう言った。
私の命を繋ぎ止めてくれたものかもしれないから、指に嵌めて落とすようなまねをしたくないんだ、と。
それからこうも言った。
身につけているのが当たり前のように感じて、事故に遭ったあの日から 手放すのが怖いのだと。

その日は、それだけしか聞かなかった。
でも、どうしても気になって数日後もう一度俺は留美ちゃんに指輪について質問を投げかけていた。

―――『その指輪、自分で買ったのか?それとも誰かに貰った?』

―――『ううん。自分では買ってないと思う。でも、誰に貰ったの?と聞かれても、私にも分からないのよ。 むしろ私が知りたいぐらいだよ』

―――『‥‥そっか』


これを聞いて思ったこと、それはほぼ確信に近い答えだった。

きっとその指輪は、和樹があげたものだ。
留美ちゃんが無意識の内にでも大切にしているのは、頭のどこかで 和樹のことを覚えているからなのかもしれない。
だから、留美ちゃんはその指輪を手放すのが怖いと感じるのだ。
和樹の思い出を持つ小さな小さな留美ちゃんが、心のどかに住んでいて、脳に命令しているのかもしれない。

『その指輪は捨てちゃだめだよ。手放しちゃだめだよ』と。

俺は、そう信じていたかった。
今でも確かに留美ちゃんの中には、和樹という存在が大きく存在しているのだと―――。


********


予備校に着き、イスに座り テキストを開いてボケーッとそれを眺めていた俺。
そんな状態がしばらく続いていた頃、入り口に留美ちゃんの姿を見つけた。

「留美ちゃん、おはよう」
「達也君!おはよう!!」

そう言って、笑いながら近づいてくる留美ちゃん。
和樹への後ろめたさはやっぱりあるけれど、それでも 留美ちゃんのことが可愛いと思うのは事実だし。
好きなことも事実。
だから、今 この瞬間だけは、俺は留美ちゃんの彼氏だよな?
いくらお前が側にいたとしても、この事実だけは 変わらない。
なら俺は、お前への罪悪感も後ろめたさもすべて忘れることにするよ。
だけど、覚えていて欲しいんだ。


何があっても、決して俺は 和樹、お前のことを裏切ったりはしない。


「今日は少し遅かったんだな、寝坊でもした?」
「う〜ん。まぁそんなとこ」
「なんだぁ?曖昧な返事だなぁ」

きっとこれからも、留美ちゃんとの付き合いには
和樹の影が纏わりつくのだろう。
その影のせいで、いくら俺が苦しむことになったとしても、お前の苦しみに比べたら 随分ましな苦しみだよな?
お前は諦めてしまったけれど、俺は諦めないよ。
お前と留美ちゃんのこれからの未来を―――。
それまで、俺達は絶対に別れないと誓うから、だから、今だけは‥‥俺を、留美ちゃんの彼氏として お前も認めてくれよな?


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