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ただ君の幸せを‥‥。

16.捨てられない物<後編>



運動場の真ん中では、今日使われた木材など燃えるものがすべて終結されていた。
もうすぐ火がくべられる。
周りには、生徒が大勢いて その中に、目当ての人物もいた。

「立石君!!」

立石君に近づいたちょうどその時、火が燃え上がった。
広がる歓声に私の声はかき消されて、立石君には届かなかった。

そっと横に並んで立ったとき、ようやく立石君は私に気付き 優しく微笑んだ。

「おつかれ」
「あっ、おつかれ」

謝るタイミングを逃し、どもりながらも挨拶を返す。
パッと視線を立石君の手元に下げると、その手にはキラリと光るシルバーの指輪が目に入った。

「それ‥‥」
「えっ?‥‥あぁ、これ?」

私の視線に気付いたのか、立石君は指輪を私に見せる。

「うん。それって、留美とおそろいのやつだよね」
「うん。でも、もう関係ないんだよな」

そう言って、指輪を固く握り締め突然それを火の中に放り投げるように振りかぶった。

「ちょっ!!何やって!!」

そう言った時にはもう遅くて、小さなそれは炎の中に吸い込まれていった。
突然の出来事に咄嗟に声をかけるのが精一杯で、立石君の手の動きを止めることは不可能だった。
目の前で起こってしまったことに半ば呆然と立ち尽くす私。
我に返ったとき、反射的に立石君に掴みかかった。

「信じられない、何であんなことするのよ!!」

立石君の肩を掴み、揺すぶりをかける。
がくがくと激しく揺らされながら、何処か切なげな瞳のまま私のことを見下ろす。
その瞳を見て、私の動きも止まった。もちろん、立石君の動きも止まる。

「俺だって、信じられない」

そう言って、手をゆっくりと広げて手の中にあるものを私に見せる。

「 !? 」

その中にあったものは、確かに今炎の中に吸い込まれていったはずの指輪。
驚きを隠さずに、大きく目を見開いたまま目の前の立石君を見上げる。

「何で‥‥」

「投げたのは石だよ」

立石君は、指輪に目を落としていた。
そして一度ぐっと指輪を握り締め、ゆっくりと手を開いた。

「なんでかなぁ。もう、大丈夫だと思ったんだ。手放せると思ったんだ。 留美への想いも、全部断ち切ったはずなのに‥‥。なんでかなぁ」

目の前の彼の声が、少し震えていたような気がした。
泣いているのかと思ったけれど、目の前の彼は泣きそうな顔をしているだけで、 涙を流してはいなかった。

「なんでかなぁ。‥‥‥どうしても、手放すことが出来ない」
「立石君‥‥」
「なんで、こんなにも あいつのことが好きなんだろう。どうして、忘れることが出来ないんだろう」
「無理に、忘れようとしなくてもいいんじゃない?捨てようとしなくてもいいんじゃない?」
「ダメだよ、俺の想いは 留美の重荷になるだけだから」
「それを理由に、‥‥逃げちゃだめだよ。自分の気持ちは、誤魔化せないものなんだから」

「‥‥いいのかな。好きでいても」
「‥‥いいんだよ」

何がいいのかなんて、そんなの私にも分からなかった。
でも、どんな理由があっても自分の気持ちに素直になることが間違いだとは思えなかった。
好きだという気持ちに、嘘をつく必要は無いと思った。あるいは、そう思いたかっただけなのかもしれない。

そして、立石君は 指輪を握りなおしてポケットに大事そうにしまっていた。



たくさんの辛い想いを胸に抱えたまま、私達は 受験の日を迎える。


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