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● ただ君の幸せを‥‥。 ●
18.想い続けること
桜咲くにはまだ早い季節。寒さの残るなか、俺達は高校生活に終わりを告げるため 卒業式を迎えた。
長い長い卒業の儀式のなか、俺はこの高校生活3年間のことを思い返していた。
忘れもしない君との出会い――――
「何してるの?‥‥花?」
「えっ?」
「羽田 留美です。よろしくね」
「立石、‥和樹です。こっちこそよろしく」
花のように可愛らしく笑う彼女の表情に目を奪われて、呼吸をするのも忘れるような衝撃。これから何が起こっても、彼女のこの笑顔だけは忘れないと高校1年生だった俺は馬鹿みたいに真剣にそう感じていた。
「で、何してるの?」
「花がさ、倒れてたから――」
「植え直し?」
しゃがみ込んでいた俺の隣に彼女もしゃがみ、俺の手元を見て 微笑んだ。
「珍しいね。立石君みたいに、花のこと気にかけてる男子生徒見たこと無い」
「‥‥‥‥」
「あっ、別にけなしてるんじゃないよ?ただ、いいなぁって思ったの」
「‥‥‥?」
「みんなが気付かないような、気付いてても知らん振りをするような小さな変化に気付いて何かしてあげるとこ」
「別に。たいしたことじゃないよ」
「たいしたことだよ」
そう言って君はまた微笑んだ。その君の笑顔に見惚れていたことなど、君はきっと知らなかっただろうな。
「私も手伝うよ」
俺はきっと彼女を好きになる。その直感は見事に当たり、俺達はまるで運命に引き寄せられるかのように出会いあの日までを一緒に過ごしてきた。
君が事故に遭ったこと、それも 運命だったのかな?
俺を忘れてしまうこと、それも 運命だったのかな?
俺が君を想い続けること、それも 運命だったのかな?
何度も忘れようとした、諦めようとした。でも、忘れることなんて出来なかった。出来るはずもなかった。
―――無理に、忘れようとしなくてもいいんじゃない?
―――自分の気持ちは、誤魔化せないものなんだから
そう、自分の気持ちを誤魔化し続けていたのは俺。
そのことに気付かせてくれた宮永には本当に感謝している。
自分の誤魔化しようのない正直な気持ちに気付き、それを抱えたままこれからを過ごすことを決めた今、俺は、達也にどうしても話しておきたい事があった。
********
「達也」
「おっ、和樹!!長かったなぁ、卒業式」
卒業式も終わって、体育館を出たその先で記念撮影などをしている生徒の間をすり抜けて、俺は達也に声をかけた。
「ちょっとさ、今からいいか?」
「ん?いいけど?」
不思議そうにする達也を引き連れて、最後の記念にと校舎のなかに入り 誰もいない教室までやってきた。
「達也、あのさ。俺、やっぱり留美が好きなんだ」
「‥‥‥‥‥」
「何ども忘れようとしたけど、やっぱり留美のことが好きなんだ」
「知ってるよ」
「‥‥達也」
真っ直ぐに俺を見て、力強くそう言った。
「お前にとって、留美ちゃんがそんなに簡単に忘れられる存在じゃないことぐらい」
「ごめん。お前達のためを思うなら、こんな気持ち捨ててしまうほうが良かったのかもしれない。でも、自分の気持ちを誤魔化すことは出来ないって‥‥気付いたんだ」
「‥‥‥和樹?俺は、お前に何をしてやればいい?」
達也の顔は、何故かどこか嬉しそうだった。まるで俺が、こう言ってくるのを待っていたかのように。
「今まで通り、留美と付き合っていて欲しい」
「お前は、それでいいのか?」
「いいんだ。今更、お前らに別れろなんて言えるわけないだろ?」
「そりゃまぁ、そうかもしれないけど」
苦笑する俺に、なんとも言えない顔をしてそう返す達也。
俺は、いい友達を持ったよ。本当に‥‥。
「ただ、これだけは約束してくれないか?」
「うん?」
「留美とは絶対に、何があっても別れない。お前が必ず留美を幸せにしろ」
「お前がそれを望むなら、俺は自分に正直に生きて留美ちゃんとずっと一緒に過ごすよ。留美ちゃんのことが好きなのは、俺もお前と同じなんだから」
「それならいい。‥‥最後に、俺が 留美を好きでい続けること。それを、許してくれないか?」
達也は一瞬驚いたような顔をして、そして馬鹿だなぁと言って笑う。
「当たり前だろ?お前が留美ちゃんを好きな気持ちを俺が止めることは出来ないよ。お前の気持ちは、お前だけのものだ」
「‥‥ありがとう」
留美への想いを抱えたまま これからを生きよう。
忘れることの方がつらいと感じるほどに大切な想いなら、切なさと共にこれからも大事に抱えていこう。
俺の目の前に、どんな未来が待ち構えているかなんて そんなものは想像もつかないけれど、これだけは自信を持って言える。
君だけを愛し続けて、君の幸せだけを願うよ。
何年経っても、それだけは変わらないと自身を持って言える。
神様?もしいるのなら聞いてください。
俺の願いは今まで、一度も叶わなかったけど、これだけは必ず叶えてください。
俺の願いはただ一つ。
留美の未来に幸せを‥‥‥。
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