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ただ君の幸せを‥‥。

21.つまらない日常



何で俺は今ここにいるんだろう?
唐突にそう感じることが、大学に入ってから多々あった。

「よう、要。何してんだ?」

駅前をブラブラと目的も無くひたすら歩いた末に、石段に腰掛けて、俺の前を忙しなく通り過ぎていく人の 波をボーっと眺めていたところだった。

「別に、休んでただけだ」
「そんなの嘘だろ?いい女いないかどうか眺めてたんだろ?」
「‥‥‥まあな」

口ではとりあえずそう言って、また俺はボーっと人波を眺めていた。
今来たこいつはナンパ目的かもしれないが、正直俺にはそんなことどうだって良かった。今は、そんなこと どうだって良かった。あいつ以上に好きになれる女なんか、この世には存在しないと思えるから。

「おい見ろよ!!あれ、かなりいい線いってるんじゃないか!?」

そう言って指差しながら、俺をバシバシと叩きつける。そうだな、と適当に相槌を打っといて叩きつけてく る手を払いのける。

「俺、帰るわ」
「はぁ?‥‥おいっ、ちょっと待てよ要!!」

後ろからまだ名前を呼ぶ声が聞こえたが、俺には関係ないと思い込みさっさと歩き続けた。

結局俺は、少しだけ大学に顔を出すことに決めた。入学して以来ちゃんと真面目に講義を受けたことはない 。必要な時にだけ顔を出し、それ以外は特に顔を出そうとは思わない。

いつからだっただろう。毎日がつまらなく感じ始めたのは。

高校生のときは、毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかったはずだった。あいつと一緒に、この先のことを話 して夢を膨らませて‥‥

「‥‥そうか」

そして気付くんだ。


―――『‥‥っ。別れよう?要‥』


「あいつが、‥‥いなくなってからだ」

高校時代、共に支えあった。これからもずっとその関係は続いていくんだと思っていた、大好きだった俺の 彼女。その彼女に別れを告げられた時、俺の中で何かが変わった。
毎日がつまらななく感じ始めて、自分の存在意義にさえ疑問を感じるようになった。
自分の夢のために受けた大学。それまでは行く意思が有り余る程あったというのに、あの日一気に冷めてし まった。それでもまだ、俺はこの大学に在籍している。

いつの間にか到着していた目的の場所。それを少しの間眺めていた。
そして、視界の端に最近知り合ったわけのわからない存在が入り込んできた。

「あっ。葉瀬倉じゃないか?」
「‥‥‥‥」
「戻ってきたのか?ちょうど良かった。これ、この間貰ったプリント」
「はっ?」
「ないよりあったほうがいいぞ。このプリントは」

押し付けられた数枚のプリント反射的に受けとり、目の前に立つ人物に視線を戻す。

「どうかしたのか?」
「‥‥絵、見せろって言わないんだな」

思わずそう呟いてしまい、次の瞬間ハッとする。立石は面食らったような顔をして、俺を見つめ返す。

「何だよ。聞いて欲しかったのか?」
「誰もそんなこと言ってない」
「‥‥1日に一度しか聞かないことにしてるんだ。あんまりしつこくしすぎて、葉瀬倉に相手されなくなる と困るからな」
「‥‥‥‥」

礼儀があるのかないのか分からない立石に、正直俺はかなり振り回されていると思う。周りから見れば、全 然そんな風には映っていないのだろう。でも、俺のこの容貌と日頃の態度のせいで 近づいてこない学生達の 中で唯一近づいてきたこの存在は、俺を戸惑わせるのには充分すぎるものだった。
しかも寄ってくる度に、「絵を見せろ」と言う。俺の絵が一体どうしたっていうんだ?こんなの何の価値も ない。俺の絵に、‥‥価値なんてないんだ。


―――『私ね、要の絵 大好きだよ』


そう言ってくれた彼女は、もう俺の側にはいない。

「‥‥お前、何で俺なんかにかまうんだよ」
「え?何でって」
「うぜぇんだよ!!俺は、絵なんか大っ嫌いなんだよ!!」

「おいっ!?ちょっと待てよ、葉瀬倉!!」

走り続けた。どこまでもどこまでも、人のいない場所に向かって。
どこだって良かった。一人になれる場所なら、何処でも良かったんだ。

どうして俺は、今ココにいる?何のためにココにいる?

彼女と夢見た未来がもう俺には見えない。俺はこれから、何処に向かって進んでいけばいいのだろう?


教えてくれよ。‥‥‥静香。


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