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ただ君の幸せを‥‥。

25.達也と要



今日は久々の休みだったから、留美ちゃんの予定を聞いて久しぶりにデートにでも誘おうかと思っていた矢 先の出来事だった。

「葉瀬倉っっ!!葉瀬倉ーっ!!」

聞き覚えのある親友の声が聞こえてハッとする。遠かった声が近くになってきて、次第にその声の大きさも 増していった。叫び声なのか怒鳴り声なのかよく分からない声で、誰かの名前を連呼していた。

「おい、和樹‥」

声の主の姿が見えた時点で、俺は呼びかけた。けれど、俺の呼びかけは和樹の声によって消されてしまう。 あまりにも必死に『葉瀬倉』という人物の名前を叫んでいるものだから、和樹の視界にすら入っていないら しく なんのリアクションもないまま俺のすぐ隣を通り過ぎようとしていった。さすがに、それは見過ごせず に俺は和樹の肩を掴んで歩みを止める。

「 !? 」

驚き目を見開く親友に呆れ顔で声をかける。

「お前さぁ。俺のことまったく気付いてなかっただろ?てか、また会ったな」
「達也‥。悪い、今ちょっと急いでたから」

そう言いつつ、和樹は目をキョロキョロさせて何かを探しているようだった。額にはかなりの汗が浮かんで いる。

「もしかして、さっき言ってた奴か?」

喫茶店で和樹の言っていた話を思い出してそう問い掛ける。

「ああ。そうなんだよ‥‥っ、そうだ!!」

突然目の前で大声を出され、少し怯む。そのまま和樹は、いいことを思いついたというような表情をして俺 の両肩を掴んだ。

「なぁ、達也!お前も葉瀬倉探すの手伝ってくれないか!?」
「はっ?」
「あいつ中々逃げ足速くてさ、見つかんねぇんだよ」
「‥‥だから?」
「手伝ってくれないか!?」

必死の形相で迫り来る和樹に、苦笑いを浮かべながら仕方なしに協力することにする。けれど、俺は『葉瀬 倉』という人物の顔を知らない。

「そうか!!ありがとう!!じゃあ、俺はあっち探すからお前はあっちから探してくれよ。じゃあな」
「って、おい!ちょっと待てって、和樹!!」

一目散にありえないぐらいの速さで走り去る和樹。俺は、追いかけることもせずにその場で和樹の背中を見 送っていた。

「‥‥どうやって探せってんだよ」

とりあえず、ここにこのまま居ても仕方ないので 和樹に指示されてた方に向かって歩きだす。すると、すぐ に公園が見えてきて 反対側に和樹の姿を見つけた。ちょうど良かったから、『葉瀬倉』のことについて話を 聞こうと思い和樹の所に少し急ぎ足で向かう。

「ん?」

けれども、横切ろうとした公園の片隅で少し不審な人物を見かけて足を止める。よく見てみると、その不審 人物は和樹から身を隠しているように見えなくも無い。ストーカーと言えば言えなくもないけれど、そいつ のその様子はストーカーとはまた違うように思えた。

「あっ‥‥」

そんなことを考えている間に、和樹はまた別の所に向かって走っていってしまった。そこでまた不審人物に 目を向けると、そいつはホッとしたように和樹の去っていったほうを眺めていた。そして、和樹が完全に姿 を消したのを見届けた後、ベンチに腰を下ろした。その様子を見て、俺はそろそろとそいつに近づいていく 。

「『葉瀬倉』‥‥さん?」

『葉瀬倉』だと目星をつけた人物の前で足を止め、そう声をかける。すると、下を見ていた顔をパッと上げ て 俺の顔を凝視する。そして何故か驚愕の眼差しを向けられた。

「 ? 」

知らない奴に声をかけられたのがそんなに衝撃だったのか?と思っていた矢先に、そいつは口を開いた。

「‥っ。斎藤‥達也‥‥」
「えっ?」

今度は俺が驚く番だった。今日が初対面のはずだ。なのに、彼は俺の名前を知っている。それもかなり驚い た表情をして、俺の名前を告げた。けれど、ここは平静を装うと決めた。まずは、和樹に頼まれているのだ から 彼が『葉瀬倉』なのかどうかの確認をとらなければいけない。

「で、『葉瀬倉』さんで合ってるのかな?」

呆然と俺の顔を見つめている彼に向かって確認を取る。彼は数秒遅れて反応を示し慌ててコクリと頷く。そ れを見て、俺の勘がはずれていなかったことにホッとする。


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