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ただ君の幸せを‥‥。

27.彼女の気持ち



いくら探し回っても、葉瀬倉の姿は見当たらない。
いくら連絡を待っても、達也からは電話もメールもこない。
どういうことだと、腹立ち気味にうろうろしてる内に いつの間にか大学付近までやってきてしまっていた。

「戻って来ちまったよ」

溜息交じりにそう呟く。すぐ見つかると思ってたけど、意外に見つからないもんなんだなぁとしみじみ思っ ていた。あと、自分の考えの甘さに呆れた。

「立石‥君‥?」

控えめな声が背後からかけられる。その声に反応して、チラリと後ろを振り返るとそこには不安そうな顔を した白井さんの姿があった。

「あれ?もしかして‥‥葉瀬倉に、会いにきた‥とか?」
「‥‥あ、うん」

戸惑い気味に彼女はそう頷いた。その言葉を聞いて、俺ははぁと溜息をつく。

「せっかく来てくれたところ悪いんだけど、今 葉瀬倉ここにいないんだよ」
「え?」
「俺も今探してるんだけど、なかなか見つからなくって」

葉瀬倉がここにいないことを告げると、白井さんはあからさまに残念そうな顔をした。
けれども、次の瞬間驚いたように彼女は目を見開いた。その視線は俺の後方に向いている。それに気付いて 、俺も後ろを振り返った。

「‥っ。葉瀬倉!?」

そこにはいくら探しても見つけることの出来なかった、葉瀬倉の姿があった。それに驚き俺は彼の名前を呼 ぶ。葉瀬倉の様子を見る限り、あいつも白井さんの存在に気付き驚いているようだった。

「‥‥要‥」

白井さんはポツリと葉瀬倉の名前を呟いたけれど、突然の再会にどうしていいか戸惑っているようだった。 葉瀬倉も最初に目を合わせた位置から動かずに立ち尽くしている。

「‥‥‥‥」

黙ったままだったが、どうやら逃げる気はないらしい。やっと向き合って話す気になれたのかと思い、俺は そっと葉瀬倉との距離を詰めようとした。

「‥っ」

けれども葉瀬倉は俺の行動に気付き一歩後ろに下がろうとする。

「逃げるなっ!!」

俺はそう葉瀬倉に向かって怒鳴りつける。葉瀬倉は顔を強張らせたまま、俺と視線を合わす。そして、覚悟 を決めたようにして葉瀬倉は俺達に向かって歩き出してきた。
すると今度は、白井さんのほうがビクッと体を震えさせる。緊張しているようだった。葉瀬倉は俺の横を通 りすぎて、白井さんの1メートル前あたりで歩みを止める。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

沈黙が長かった。

「あの‥さ」

葉瀬倉がその沈黙を破った。けれど、その後の言葉が続かない。何かを言おうとして、言葉に出来ずにその まま口を閉じる。その様子をただじっと見ていた白井さんが勇気を振り絞って口を開いた。

「要が‥‥大学をサボりがちになってしまったのは、私のせい?」

それを聞いて、葉瀬倉は目を見開く。そして 不自然に目を逸らして斜め下に視線を落とす。

「やっぱり、そうなんだ」

悲しそうに顔を歪ませて、白井さんは涙を流さないように堪えていた。そのことに気付いた葉瀬倉がやっと 口を開いた。

「別にっ、お前が気に病む必要はないだろっ!?‥‥もう、俺たちは何の関係もないんだから‥」
「‥っ」
「お前は俺を振ったんだ。その事だけが真実だろ?お前はこんな俺だったから愛想を尽かしたんだろ!?」
「違うっ!!」
「違わないだろっ!!」

葉瀬倉は肩で息をして白井さんとは目を合わさないようにしていた。白井さんは、目に涙を溜めた状態で葉 瀬倉をじっと見つめていた。

「違うのよ。違うの。私は、そんなつもりで別れを告げたんじゃないのっ」
「‥‥‥‥」
「要の重荷にはなりたくなかったのよ。だからっ、だからっ‥」

葉瀬倉は視線を上げ、白井さんのことを見つめる。だが、見つめた先にいた彼女が泣いていたことに驚き少 し戸惑う。

「あの頃の要は、何もかもを放り出して私のところに来てたから‥」
「‥‥そうだな」
「このままじゃいけないと思ったの。要の将来を考えたら、体の弱い私は邪魔だと思ったのっ」

未だ彼女は泣き続ける。葉瀬倉はただじっと彼女を見つめていた。

「好きよ、要。今でもその気持ちは変わらない」
「‥っ。なら、どうしてあの時っ!!」
「言ったでしょ?重荷にはなりたくなかったの。あの時は、要を私から解放してあげることが正しいと思っ てたの」

そして彼女は微笑んだ。目には沢山の涙を溜めて。
それを見て葉瀬倉は白井さんとの距離を一気に詰めて抱き寄せる。自分の腕の中にしっかりと閉じ込めて抱きしめた。

「俺には、お前が必要だったんだ。重荷になんかなるわけないだろっ」
「‥‥っ。うん」
「もう二度と、あんなこと言うな」
「‥うん、うん。ゴメンネ、要」

その様子を見届けたあと、俺はその場をそっと離れた。
もう一度やり直すことになったんだと聞いたのは、それから数日経ってからのことだった。


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