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ただ君の幸せを‥‥。

3.失われた記憶



うそだろ?なぁ、うそだろ?
だって、だってアイツ‥‥。
さっきまで俺と一緒に、居たじゃないか!?

「何‥でっ‥‥」

その留美が何で交通事故なんかっ!?

俺はただ、ひたすら自転車をこいだ。
何度も道行く人にぶつかりそうになりながら、 がむしゃらに自転車をこいだ。


「ここかっ!?」

病院の前についたとき、自転車を駐輪所に止める時間も惜しく、 悪いと思ったが その辺に放置して、俺は留美のいる病室に向かった。

********

「―――‥おじさん!!っ留美は!?」

病室の前には、留美のお父さんが一人で立っていた。
少し顔色が悪かったが、それでも俺の姿を認めると、 ホッとしたような笑顔で迎えてくれた。

「―――‥和樹君」

「あのっ留美は!?おばさんの姿も見えないようだけどっ」

あせる俺を落ち着かせようとするように、 おじさんは俺の肩に手を置いた。

「落ち着きなさい、和樹君。留美は大丈夫だ。 頭を少し強く打ったそうだが、ついさっき意識も戻った」
「そう‥‥ですか」
「‥‥じゃぁ、病室に入ろうか」
「え?‥‥あの、俺も一緒で‥‥いいんですか?」

驚く俺に、おじさんは優しく笑いかけた。

「もちろんだとも。和樹君は 未来の‥‥私達の家族だろう?」

俺の顔は、一気に赤くなったに違いない。
留美はもう今日のことを家族に話してしまったのか。

「ハハハッ。そう照れなくてもいいだろう。 私も妻も、和樹君なら大歓迎だよ」
「あっありがとうございます」


おじさんは、そっと留美のいる病室を開けた。
そこには、ベッドに横たわる留美と傍に座る留美のお母さん。
あと、病院の先生がいた。

「ほら 留美。和樹くんよ」
「―――‥‥和樹‥?」
「そうよ。わざわざ 留美のために来てくれたのよ」


「―――‥‥和樹って、誰?」


「えっ?なっ何言ってるのよ。和樹君よ? ほら、そこにいるじゃない」


戸惑うおばさんを見ながら、 俺は 留美が今何て言ったか理解することが なかなか出来なかった。


「和樹?その人が?‥‥知らない。あんな人知らないよ」

気付いたときには、 留美の両肩を力任せに掴み、必死の思いで呼びかけていた。

「留美!?俺だよっ和樹!!立石和樹!!」
「いやっ」
「なぁ、冗談だろ?知らないわけないだろ!?」
「やめて!!知らない!!あなたなんて知らない!!」

「冗談よせよ!!」


その場に居合わせた医者と、通りかかった数人の看護士さんとで、 俺は留美から引き離された。


「―――‥だってっ!! お前っお父さんのこともお母さんのことも覚えてるんだろ!?」

目の前には、怯えた目つきで俺のことを見る留美と、 その隣で涙を溢れそうなぐらいに溜めているおばさん。
そのおばさんを支えるようにして、肩を抱き寄せているおじさん。


「何で‥‥俺だけ‥‥。何でっ‥‥」

全身の力が抜けて、その場からくずれ落ちそうになった。
絶望のどん底とは、きっと今のようなことを言うんだろう。


「―――‥‥何でっ‥‥どうしてっ‥」


これはきっと悪い夢だ。留美が俺を‥‥‥、忘れるわけない。


「―――‥‥記憶喪失ですね‥‥」

静かな病室の中で、医者の声が冷たく響いた。

もう そのあとのことは、覚えてない。

********

次の日、おじさんとおばさんが 俺の家に訪ねてきた。

「ちょっと今から‥‥話せるかしら‥?」

本当は、誰とも話したくなかったが、 俺が 留美の家族の誘いを断れるはずがなかった。

「―――‥‥いいですよ」


俺は、おじさん達に連れられて 近くの喫茶店にやって来た。


「あのね、和樹君‥‥。 留美のことだけど、先生が仰るにはね、 アレは‥‥事故が起こったあとの一時的な記憶障害かもしれないの」
「‥‥‥‥‥」
「だからね、また 留美のところに来てくれないかしら? 何度か通えば、和樹君のことも‥‥‥、思い出すかもしれないわ」
「―――‥‥そう、ですね」

一時的な記憶障害?思い出す?
誰が、誰のことを?‥‥留美が、俺のことを‥‥?

「‥‥‥いつですか?」
「えっ?」
「‥‥‥いつ思い出してくれますか? 何度通えば留美は俺のことを思い出しますか?!」
「‥‥和樹君‥」
「本当に‥‥、留美は俺のことを思い出しますか?! 写真もプリクラも無い!! 俺と留美の思い出は‥‥いつだって記憶の中にしかないのに?!」

知らず知らずのうちに声が大きくなっていき、 店の中で注目を浴びてしまった。
目の前では、やはり、 あの日と同じ涙をたくさんためているおばさんがいた。

「―――‥‥すみません」
「ううん。いいのよ」
「いえ。こんなところで大声だしてすみませんでした。 ‥‥おばさんの言うように、留美の所へは お見舞いに行きます」
「‥‥‥ええ」
「‥‥‥じゃあ、今日はこの辺で失礼します」



それから俺は、何度も何度も留美の所へ行った。
でも、退院を一週間前に控えた頃、俺はもう 無理だと悟った。


俺が留美と将来を誓い合ったあの日‥‥‥。
留美の中から俺は、たくさんの思い出と共に‥‥‥消え去った。


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