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ただ君の幸せを‥‥。

30.恋に落ちた日



受験を乗り越えて、合格が決まった大学。今日は、そこの入学式だった。
入学の資料を手に持って歩いていると、異たる所でサークルのチラシとかを貰った。というより、ほとんど 無理やり持たされた。

別に、私どこのサークルにも入る気ないし。

そんなことを考えながら歩いていると、見事に何も無い所で転んだ。

「きゃっ!!」

またやった。
そんなことを考えつつも、今回は顔面直撃を免れただけでも偉いと思っていた。けれど、すぐにそんな余裕 は私の中から消し去られることになる。

「‥‥痛そぅ〜」
「え〜。ちょっとアレ、恥ずかしくない?」

そんな声を耳にして、一気に火が出そうなぐらいの勢いで顔が熱くなる。急いで上体を起こし、転んだ拍子 に手放してしまった紙達を拾い集める。けれど、恥ずかしさのせいで緊張してしまい少し震える指先ではな かなか上手く紙を拾えない。
それが更に恥ずかしさを誘う結果になってしまい、知らず知らずのうちにギュッと唇を噛み締めていた。

「大丈夫?」

突然目の前に影が出来て、人の声が頭上から振ってくる。それに心底驚いて勢いよく顔を上げた。
だって、こんな状態で誰かが声をかけてくれるなんて思ってもなかったから。

「あ、あの?」

声をかけてくれた彼は、私の目の前にしゃがみ込んでいて落ちていた紙を手に取った。
もしかして手伝ってくれるのか?と思い、遠慮がちにそう声をかけると彼は言った。

「拾うの手伝うよ。その後、保健室に行こう」
「え?」
「ソレ」

保健室に行くという意味がわからず、首を傾げて聞き返すと彼は呆れたような表情をして私の膝を指差す。 その指先を辿って視線を下におろしてみる。

「あっ」

おそらく転んだときに擦ったのだろうと思われる傷が私の膝小僧に出来ていた。
ジンワリと血が滲んでいるのを見て、急にヒリヒリしてきたような感覚に襲われる。

「さ、さっさと拾って」
「あ、はい。あの‥‥」
「何?」
「‥ありがとうございます」

私よりも手早く紙を拾い集めていく彼に、慌ててお礼を言う。その言葉を聞いて少しだけ顔を上げた彼と、 目を合わす事が気恥ずかしくて 私はすぐに下を向き紙を拾うことに専念した。


********


彼に連れられてやってきた保健室。
治療をしてくれた先生は、私のことを見た瞬間呆れたような顔をした。その上治療が終わった瞬間にこんな 言葉まで貰ってしまった。

「はい、これで終わり。にしても、入学式に転ぶなんてとんだ災難だったね。もう大学生なんだから、もう ちょっとシャキシャキ歩きなよ」

恥ずかしくて少し赤くなっただろうと思われる顔を見られたくなくて、急いで下を向いたけれど‥多分、彼 にはしっかり見られてしまっただろう。

「ありがとうございました」
「はいはい。お大事にね」

先生に軽く頭を下げてお礼を言い、次は彼にもお礼を言わなければいけないと思い歩み寄る。

「あの、先輩‥も、ありがとうございました」
「え?ああ、気にしなくていいよ」

そう言って、優しく微笑む彼に思わず目を奪われる。
そして、彼にそろそろ行かなくてはならないということを告げられる。

「あっ、すみません。私のせいで時間潰してしまって」
「いいって。別に、急ぎの用があったわけじゃないし」
「えっと、もし良かったら‥名前教えて頂けませんか?」

気付いた時にはそう口走っていた。
これで彼との関係が終わってしまうのは嫌だったのだ。

「俺?立石 和樹。君は?」
「‥‥朝日 由紀菜です」

『立石 和樹』
その名前を深く深く胸に刻み込んだ。

春。それは私と彼の出会いの季節。
私の恋の始まりは、間違いなくこの瞬間だった。


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