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ただ君の幸せを‥‥。

34.要の疑問



「はい、どうぞ」
「‥サンキュ」

静香がいる喫茶店に今俺は居る。
奥のテーブルに1人で座り、静香が持ってきてくれたコーヒーに手を伸ばす。

「‥‥ねぇ、要」
「ん?」

エプロンを着けたままの状態で、静香が俺の向かい側の席に座る。
それから、じっと俺の目を見つめる。

「何かあった?」
「え?」

じーっと覗き込むようにして俺の目を凝視する。
そんな静香の顔には、心配している表情が見えていた。
そのことに気付いて、俺は抱いた疑問を静香にも聞いてもらうことに決めた。

「そんなに、深刻な悩みでもない。特別大変なことがあったわけでもない」
「うん」
「それでも、‥聞いてくれるか?」

静香の顔色を窺いつつ、俺はそう告げた。
俺の言葉を聞いた静香は、少しだけ吃驚したように目を見開いて、そのあと綺麗に微笑んだ。

「馬鹿ね。聞くに決まってるでしょ」
「‥‥ありがとう」

俺を包み込んでいた空気が、一気に柔らかさを増したと感じる。
ふわっとした温かい何かに包まれたような心地よさ。
静香と居る。ただそれだけで心が安らいだ。
それもこれも、全てアイツのおかげだと考えると、やっぱり放ってはおけないと思うのだ。

「アイツ‥‥。和樹の、話なんだけどな」
「立石君?」
「ああ。アイツの目の前でなんか口が裂けても言ってやらねぇけど‥」
「何?」

静香から視線を逸らして、テーブルに肘をついた手のひらに顎から頬にかけてを乗せる。
窓から見える人の行き交う姿を少しだけ眺めてボソッと呟く。

「いい奴だろ。アイツ。馬鹿みてぇにお人好し」

少し考えて、意を決して言った言葉。
他人を褒めるなんて芸当、久しくやってなかったので必要以上に恥ずかしい。

「‥‥‥?」

いくら待っても反応のない静香の様子が気になって、そっと視線をあげて覗き見る。
けれど、見えた光景にカーッと顔が熱くなりガタンと立ち上がる。

「っ!!何笑ってんだよっ」

そこには、必死で笑いを堪えている静香の姿があったのだ。
よっぽど必死に堪えていたのだろう。目にはうっすらと涙が溜まっていた。

「だってっ、だってっ。要が‥っ‥っく」
「まだ笑うかっ!?」

俺の言葉を聞いて、静香は目を擦りながらこっちを見る。
まだ顔は笑っているが、さっきよりはマシな気がする。

「要って、‥好きだよね。何だかんだ言って立石君のこと」
「はぁ?好きとか言うなよ、気持ちワリィ」
「だって、久しぶりに聞いたよ?要が他人のこと褒めるの」
「‥べつに、褒めてねぇし」
「褒めてたよ」
「褒めてねぇ」

しばらくじっと見詰め合って、プッと吹き出す。

「ハハッ。話全然進んでないじゃん」
「お前が悪いんだろ」
「ちょっと笑っただけじゃない」
「それが悪いんだよ」
「ほら、また話進まない」

静香にそう言われて、言葉に詰まる。
こんなことを繰り返していたら、本題に入る前に今日が終わってしまいそうだ。

「じゃ、話進める。さっきのことは全て忘れろ。いいな」
「はいはい。分かった」

まだ少し面白そうに笑っているけれど、この際そんな細かいことは気にしないことにする。

「アイツ、モテるくせに誰とも付き合わないんだ」
「彼女居るんじゃないの?」
「いや、居ない」
「そうなんだぁ。意外〜」

目を丸くして静香は頬杖をついた。

「けど、今1年の子が和樹と仲良くてさ。アイツも別に嫌そうじゃなかったから‥上手くいけばいいよなぁ 程度に考えて、密かに見守ってたんだよ」
「うんうん」
「けど、実はそれはアイツにとってはかなりの迷惑だったってことが今日分かって」
「小さな親切大きなお世話ね」
「‥‥‥‥」

さらーっと突っ込む静香をジトーッと睨みつける。
それに気付いた静香が俺を見つめてニコリと微笑む。

「続きどうぞ?」

‥‥手強い。

「何か、好きな人がいるみたいなんだけど‥」
「なんだけど?」
「どうも様子がおかしくて」
「どういう意味?」

脳裏を過ぎるのは、何もかも諦めたような表情をして窓の外を眺めたアイツの横顔。

「‥説明するのは難しい。でも、とにかく様子が変だった」
「う〜ん。要の気にしすぎとかじゃなくて?っと、いらっしゃいませ〜」

パッと静香が立ち上がり、入ってきたお客様に駆け寄る。

「どうぞ、お席空いておりますのでご自由にお座りください」
「どうも」

冷め切ってしまったコーヒーに手を伸ばす。
それを口につけようとした時に、「あっ」という声が店内に響き渡る。
何だ?と思って、後ろを向くと‥‥

「あ‥‥」
「やっぱりお前だ。よ、久しぶり」
「アレ?葉瀬倉君?」

そこには、斎藤 達也と羽田 留美が居たのだった。


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