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ただ君の幸せを‥‥。

35.ひとつの推測



斎藤さんと、同じ大学の羽田が連れ立って店内に入ってきたことに驚き、俺は馬鹿みたいに硬直していた。

「お前1人でいつもここ来てんの?」

俺が硬直している間に、斎藤さんはこちらに歩いてきていていつの間にか目の前に座っていた。

「おーい。聞いてる?」

手を目の前でプラプラと振られて、俺はやっと覚醒する。

「あ、聞いてますっ。聞いてますっ」

いきなり元気よく声を発した俺に、斉藤さんは少し驚いたように目を丸くする。
それからすぐに、呆れたように眉根を寄せて口を開いた。

「敬語使うなって。同い年だろ?」
「いや、‥でも」

斎藤さん相手に気軽に話すという行為は一朝一夕で出来るものではなかった。
それほど、中学時代のイメージが今でも色濃く残っているのだった。

「ねぇ。2人って知り合いだったの?」

斎藤さんの隣に当たり前のように座っていた羽田が、控えめに口を挟んだ。
それに気付いて、斎藤さんが羽田を見て微笑む。

「そう。といっても、ちゃんと話したの最近だけど」
「 ? 」
「和樹に葉瀬倉のこと探せって言われたときに、話したんだ。何か中学同じだったらしいんだけど、俺覚え て無くってさ」
「うわっ。達也君忘れてたの?サイテー」
「別に、葉瀬倉だけじゃねぇし。覚えてないの」
「何それ。開き直り?」
「さぁね」

仲良さそうに会話をする2人。
そこへ注文を取りに静香がやってきた。

「ご注文のほう、お決まりでしょうか?」

営業用のスマイルで静香は微笑む。
静香が来たことに気付いて、斎藤さんと羽田は注文をし始めたのだった。


********


「へぇ〜。じゃあ、お前さっきの人と付き合ってるんだ」
「‥‥はい。えーっと、斎藤さんこそ羽田と付き合ってるんですか?」

一瞬、斉藤さんの瞳が揺らぐ。
けれど、その理由が俺には分からなかった。

「ああ」

短く発せられた一言。
隣に座っている羽田も、ニッコリ笑って頷いていた。
それから、突然思い出したように羽田が口を開いた。

「そうだっ。葉瀬倉君っ」
「え‥。な、何」
「和樹君‥。最近、変じゃない?」

静かに切り出されたその問いかけに、俺は少し驚く。
こいつらって、そんなに仲良かったけ?と。
確かに、何度か挨拶程度の会話を交わしているのを見かけたことはあった。
けれど、つい最近の和樹の変化に気付けるほど親しいとは思えなかった。

「変‥だけど、どうして‥」

気付けば疑問を口にしていた。

「う‥ん‥。もしかすると、私が噂のこと聞いたのがいけなかったのかなぁとか思ってたり」
「噂?」
「何だよ、和樹そんな噂になるようなことしてんのか?」

興味津々といった風に、斉藤さんも会話に参加する。

「‥‥和樹君が、一年の子と付き合ってるっていう噂‥なんだけど」

何かがもうすぐで繋がりそうだった。
その何かに手を伸ばしたくて、俺は羽田の話に真剣に耳を傾ける。

「この間、友達に聞いてきてって頼まれて聞きに行ったんだけど。ちょっと、途中から様子がおかしくて‥ ‥」

羽田の話を聞いて、もしかして?という考えが頭の中に浮かぶ。
けど、もし俺の考えが間違っていなかった場合‥‥。
それこそありえない恋物語だろう?
だって、こいつには斎藤さんっていう彼氏がいる。
斎藤さんの友達なら、それくらいのこと知ってるはずだろ?

なぁ、和樹。
お前の言ってた好きな人が、羽田 留美だなんてこと‥‥あるわけないよな?

固まる俺の姿を見て何かを感じ取ったのか、斉藤さんがじっとこっちを見て口を開いた。

「葉瀬倉。あとで、話がある。少し付き合え」

拒絶することなど出来ないぐらいの威圧感で斉藤さんは言う。
それに対して、俺はただ首を縦に振って頷いた。
そんな俺たちの様子に、羽田は首を傾げていたのだった。


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