BACK | NEXT | TOP


ただ君の幸せを‥‥。

38.自分勝手



「俺が、昔留美と付き合ってたっていうことは聞いたんだよな」
「ああ」
「そして、‥‥留美が俺の記憶を失ってしまったということも‥?」
「‥‥ああ」

固い表情で要は頷く。その様子を見て、俺は苦笑した。

「なぁ。お前がそんなに固くなる必要ないよ」

そんな俺の言葉に要は目を丸くする。
それから少し不機嫌そうな顔をして、俺のことを睨みつける。

「馬鹿言うな。こんな話気軽に聞けるわけないだろうっ」
「‥‥まぁ、そうだけど」

肯定の意味を持って、軽く頷く。
一度大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐き出す。

「何を話せばいいんだろうな。もう、お前は俺たちの関係を聞いてしまってるんだろう?」

要に視線を向けると静かに頷いていた。

「‥‥要は、何に疑問を覚えたんだ?俺の好きな人が、‥‥留美だってことか?」

自嘲気味に笑って要を見やる。
要は少し考えてから、俺の目を真っ直ぐに見据えて「ああ」と一声発した。

「間違ってると思うか?達也に留美を任せたくせに、今でも留美のことが好きだなんて」
「‥‥お前が間違えた場所はそこじゃないだろ?」
「何?」
「どうして、そんなに好きな彼女を他人に任せることが出来んだよっ」
「留美が、‥‥達也のことを好きになったから」
「は?」
「留美が達也を好きなら、応援しないといけないだろ?だって、それが彼女の幸せだ」
「 !? 」
「‥立石君‥‥」

絶句する要と唖然とする白井さん。
その様子を眺めながら、俺は話を続ける。

「俺はな、要。留美が幸せになれるなら何だってするんだよ。あの事故が起きる前までは、俺が彼女を幸せ にするんだと決めていた。だから、プロポーズだってした」
「え‥‥?」

驚いたようにして顔をあげる要。白井さんも同じような顔をしている。

「馬鹿みたいだろ?高2でプロポーズなんてありえない。でも、留美は俺にとってそれくらい大切な存在だ ったんだ。‥‥まぁ、今となってはそのことを覚えてるのは俺とあとに数人ぐらいだけど」

その時、俺は思い出していた。
あの頃の俺たちを。今まで生きてきた短い人生の中で一番輝いていたあの頃を。


『羽田 留美さん。大学卒業したら、俺と結婚してくれませんか?』


目から涙を溢れさせてただ頷いてくれた彼女。
その光景を今でも俺は忘れられない。
幸せだった時間。もう戻ってはこない時間。果たされることのない約束。
何よりも幸せで、何よりも切ない思い出。

「おい、和樹?」
「‥え‥‥?」
「大丈夫か?」

いつの間にか下を向いていた顔をあげて見れば、そこには俺の顔を心配そうに覗きんで来る要と白井さん。

「ああ、大丈夫。大丈夫だよ」
「‥‥辛いなら、やっぱり話さなくていい。大体は分かったから」
「え?」
「今、羽田は斉藤さんの彼女で、お前は斎藤さんたちの友達。その関係、お前は納得してるだろ?でも、親 友の彼女である羽田を今でも好き。それだけが、真実だろ」
「‥ああ」

要にじっと瞳を覗き込まれる。
それはまるで、俺の心の奥深くに眠っている何かを探り出そうとしているかのようだった。

「でもな、和樹。俺はそれでもお前に言いたい」
「 ? 」
「お前がこんなところで無理する必要が何処にある?好きなら好きだと言えばいい。羽田と付き合ってたの は俺だと言えばいい。何で、どうしてお前はっっ。そうやって我慢することばかり覚えるんだ!?」
「我慢してなんか無い」
「嘘を吐くなっ!!今までお前は充分我慢してきた、色んな苦しみに耐えてきたろ!?なら、お前はもっと 自分勝手に生きてもいいはずだ!!」
「要。俺は、あの選択をしたことで充分自分勝手な行動をしてるんだよ」
「違うだろ!?そうじゃないだろ!!」
「何も違わないよ。実際、俺の選択のせいで達也にも迷惑をかけただろうし」
「お前っ!!」

激情する要をそっと宥めながら、白井さんが俺を見た。

「立石君、私達あなたのおかげで今という時間を過ごすことが出来ているの。あなたと出会えたから、私は 要と未来を夢見ることが出来るようになったの」

そう言って、白井さんは幸せそうに微笑んだ。
でも、俺が要達に深入りしておせっかいをやいた理由を知ったら少し幻滅するかな?俺の夢や願いを要達に 託したんだと知ったら、どう感じるかな?

「だから‥‥。今度はね、私があなたの力になってあげたいの」

思いがけない優しい言葉に俺は少しだけ瞳を揺らがした。
それから今の精一杯の笑みを浮かべて白井さんに言葉を返す。

「ありがとう」

でもね、俺は知ってるんだ。
誰がどんなに俺の力になろうとしてくれたって、俺は、留美以外の誰かを好きになんてならない。
正確には、誰も好きになれないんだ。
だからと言って、留美に自分のことを打ち明けなかったことを悔いているわけでもない。いや、悔いている ことに気付かないフリをしているだけかもしれないけれど。

「‥‥ありがとう」

もう一度そっと呟いて俺は目を閉じた。

羽田 留美さん。
あなたと共に歩める未来は俺には存在しません。だから‥‥

今はただ、あなたの未来に少しでも俺が関わっていることを祈ります。


BACK | NEXT | TOP

Copyright (c) 2005 huuka All rights reserved.





100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!