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ただ君の幸せを‥‥。

39.瞳に映る者



入学当初から、私にはずっとずっと好きな人が居た。
それは一目惚れだったけれど、あれから何度も話してもっともっと好きになった。
でも、どうしてだろう。いつからか、彼に突然避けられるようになり始めた。
私は何かしただろうか?私が付きまとっていたことは、迷惑だったのだろうか?


「和樹先輩」

無視されるのでは無く、やんわりと拒絶されることを承知で私は今日も勇気を振り絞って話しかける。
すると、やはり彼は一度戸惑ったような顔をして私のことを見つめてきたのだ。

「‥‥何?」

たったその一言で、拒絶されたような気分に陥る。
ここで負けてはいけないと、そう思っているのに、怯んでしまう私が居た。

「いえ、‥何でも‥ありません」
「そう。じゃ」

いつもと同じ会話のやりとり。
すぐに背中を見せてしまう和樹先輩を私はずっと見つめていた。
今日だけじゃない。今までずっと私は和樹先輩のことを見つめていた。
だから、知っていたんだ。
私が彼を見ているのと同じように、彼もある人のことをずっと見つめていることを。

彼女の名前は『羽田 留美』。
成績も良くて、性格も良くて、誰からも好かれてて‥‥。私が欲しいものをすべて持っているような人だっ た。
でも、その彼女には他の大学に格好いい彼氏がいると聞いていた。
だから、和樹先輩が羽田先輩のことをいくら好きでも関係ないと思っていた。そりゃ、まったく気にしてい なかったと言えばそれは嘘になるけれど。
和樹先輩に片想いをする私。彼氏のいる羽田先輩に片想いをする和樹先輩。
どうしてこんなに一方通行の恋なんだろう?私のことを好きになれば楽になれるのに。ずっと、そう思って いた。


「あ、また見てるよ。立石君」
「本当だぁ。やっぱりまだ好きなのかなぁ」

突然耳に入ってきた先輩の名前にビクッとする。
辺りを見回してみると、すぐ傍を歩いていた女二人組みが先輩の行ったほうを見ながら話していた。思わず 私ももう一度和樹先輩のほうに視線を戻す。

「あ‥‥」

すると、そこには近くを通り過ぎていった羽田先輩の後ろ姿を目で追っている姿があった。
その切なそうな顔を見て、私も胸が苦しくなる。

「ん〜。やっぱり忘れられないんじゃない?だって、別に嫌いで別れたわけじゃないんだし。あの二人」
「うん、そうだよね。留美が‥、あの事故に遭わなければ、きっと今でも付き合ってたんだろうね」

後ろ話し続ける人たちの会話の内容に聞き耳を立てる。
あの二人っていうのは誰のことだろう?留美って、羽田先輩のことだよね?じゃあ、男のほうは‥‥?

‥‥和樹‥‥先輩‥?

心臓がバクバクと大きな音を立てて鳴り響く。
緊張して、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「そりゃそうでしょう。立石君と留美は、皆憧れてたぐらいの仲の良さだったんだから」
「 !? 」

気付いたときには、私の目の前に彼女達の顔があった。

「ねぇ!!今の話詳しく聞かせて!!お願いっ!!」

必死の形相で掴みかかる私に驚いた彼女達は、目を大きく見開いて硬直していた。
けれど、そんなことに構っている暇は無くて、私はせかすようにして彼女の服を掴んでブンブンと揺さぶる。

「お願いっ。教えて!!」

その後、私の剣幕に押されて渋々教えてくれた彼女達。
最後にはきちんと誰にも口外しないようにと口止めもされてしまった。

「‥‥嘘‥でしょう‥‥?」

想像していなかった話の内容に、私は愕然とした。
和樹先輩と羽田先輩が過去に付き合っていたという事実にも驚いた。けれど、何に一番衝撃を受けたかと言 われれば、羽田先輩が事故に遭ったことによって和樹先輩のことを忘れてしまったということだった。

「じゃあ、本当に言っちゃ駄目よ?私達だって本当は口止めされてるんだから」
「あ、はい」

心此処に在らずといった状態で、私はそう答えた。
その場を立ち去る先輩達を眺めて、頭の隅で私は考えていた。

和樹先輩にはっきり気持ちを伝えようと。

今、和樹先輩は羽田先輩に心を囚われたままで前に進めていないのだ。
そんな状態が良いわけない。私はそう思った。
だから、だから、和樹先輩を私が救ってあげるのだ。
偉そうな言い方かもしれない。私に誰かを救うなんて力はないかもしれない。
でも、今の状態でいるよりも前向きに私と付き合っていったほうがいいに違いない。

私は走った。和樹先輩に、自分の想いを伝えるために。


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