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ただ君の幸せを‥‥。

40.何かが崩れる音



いつもと同じ毎日。いつもと同じ風景。
何気ない日常を今日も過ごしていくんだと思っていた。


「留美ー。今日、帰りどっか寄ってかない?」
「ん〜?いいけど。何?どっか行きたいとこあるの?」

特に用事も無かったから、私はあまり考えずにそう返事をした。
その私の返事に少しホッとしたような顔を見せてから、友達は嬉しそうに笑った。

「うんっ!!多分、留美も喜ぶと思うんだけどねっ」
「うんうん」

私が喜ぶ所って何処だろう?と頭の中で考えていた。
どこか新しいお店でも出来たっけ?

そんな考えを巡らせていたときに、友達はフフフと笑ってこう言った。

「ケーキバイキング」
「え?」
「新しいとこ出来たんだってー!!」
「ホントに〜!?行きたい行きたいっ!!」

甘い物に目がない私はその話に即飛びついた。
私の反応を見て、友達は「うんうん。やっぱりね」と1人納得していた。
私の好みはもうお見通しですか‥。
なんだかなぁと思いつつ無意識に苦笑を浮かべていた。

高校時代の頃も、もちろん甘い物は好きだった。
でも、あんまり放課後とかに食べに行った記憶が無い。

そこまで考えて、ふと頭を過ぎるものがあった。
大分前にしばらく見続けたある夢である。実は、最近またあの夢を見るようになった。
ある1人の男の子の手を私は掴んで前を歩いている。そして、パッと振り返って男の子の顔を見ようとした 時、いつもいつも光や影が邪魔をして見えずに終わるのだ。
不思議な夢。けれど、気味は悪くない。むしろ心地の良い夢だった。

そして、夢の彼は‥‥‥甘い物が苦手だった。


「羽田先輩っ!!」


突然聞こえた大きな声にビクッとして肩を竦める。
確かに私の名前を呼ばれて、目をまるくしたままの状態で周りの様子を伺った。
声の主は何処だろう?そう考える暇もなく前から突進してくる1人の女の子がいた。

「え‥‥?」

あまりの勢いに少し呆然とそれを見つめる私。
目が点な私とは対象的に、突進してくる彼女は目をつり上がらせて怒りのオーラを放出していた。

「ちょっ、何?何?」
「わ、わかんない」

隣にいた友達も彼女のスピードと剣幕に恐怖を感じ戸惑っていた。
私自身も彼女に名前を叫ばれて突進される理由が分からなくて戸惑う。
そこへ、漸く目の前にやってきた彼女がゼーゼーと息を切らしながら真正面から私を睨みつけてきた。
ゴクリと唾を飲み込み、「な、何?」と恐る恐る声をかけた。
すると、彼女は口をわなわなと動かして‥‥次の瞬間、右手を大きく振り上げた。

「っ!!」

パンッ。

乾いた音がそこら一帯に鳴り響いた。
ジンジンと痛む頬を抑えて、ようやく自分が叩かれたことを理解する。
目をパチクリしながら私はワケが分からず彼女を見つめる。

「ちょっと!!あなたいきなり何すんの!?」

私と同じように硬直していた友達が、先に我にかえり彼女を怒鳴りつける。
彼女は一度隣にいた友達に目を向けたあとすぐに私に視線を戻して口を開いた。

「いい加減和樹先輩を解放してあげてよ!!先輩さえいなければっ和樹先輩はっ!!」

激昂する彼女の口から飛び出た名前に驚く。

「‥‥和樹‥君‥?」

解放って何?私がいなければ何だというの?
ワケが分からない。戸惑いの中に、和樹君の顔と夢に出てくる人の姿が見えた。
どうして、今ここでこんなことを思い出すのだろう?
どうして、和樹君の顔と夢の人の姿が浮かぶのだろう?

「朝日さんっ!!」
「っ!?先輩!?」

聞き覚えのある声を耳にして、私はハッとして声の聞こえてきたほうへ目を向ける。
声の主であった和樹君は、朝日と呼ばれた彼女が来たのと同じ方向からやってきた。
彼女も驚いた様子でバッと後ろを振り返っていた。
そうか、この子があの噂の彼女だったのかとボンヤリ考えていたところで、また 乾いた音を耳にした。

「何やってんだお前は!!」
「‥っ」

朝日さんに挙げてしまった手をギュッと握り締め、和樹君は大きな声を出した。
こんなに怒りを露にして大きな声を出す和樹君を私は初めて見た。

いや、‥‥二回目だった。

一回目は、私が和樹君と初めてあったとき。
彼は、自分のことを覚えていなかった私にすごい剣幕で掴みかかってきた。
あの時も確か、こんな風に大きな声をあげていたと思う。
そして、思い出してしまった。
あの時の、和樹君の悲しみと絶望に歪んだ顔を‥‥。


このとき、私は確かに感じていた。心の奥、ずっとずっと深くで。
いつもと同じはずだと信じていた日常が崩れ始めていることを‥‥。


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