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ただ君の幸せを‥‥。

41.宣戦布告



ずっとずっと彼女から逃げ続けていた俺。
その現状は、本当に突然崩れることになった。


「先輩」

そう後ろから声をかけられて、俺は何気なく視線を後ろへ送った。
するとそこには朝日さんの姿があって、俺は瞬間やってしまったと思った。

「何?」

一度目を合わせてしまうと逃げるわけにもいかず、渋々俺は返事をした。
朝日さんの肩は上下していて、額にはうっすらと汗をかいていた。
走ってきたのか?そう疑問を抱いていると、彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめてこう告げた。

「和樹先輩、お願いです。どうか逃げずに聞いて下さい」

今まで逃げ続けてきたこと、やっぱり彼女は気付いていた。
そりゃあ、あれだけ露骨に避けといて気付いてなければいいなんて甘い考えは最初から無かったけれど。
改めて言われると、自分がしてきたことを実感させられた。

「私、和樹先輩のことが好きです」

そう告げられた瞬間、俺の胸は猛烈に痛んだ。
彼女の気持ちに答えることは出来ない。だから、謝ろうと口を開こうとした。
けれども、俺が口を開くよりも先に彼女が話しだしてしまった。

「分かってます。和樹先輩に好きな人が居るってことは」
「え?」

思わず聞き返してしまった俺に、朝日さんは少し微笑んで見せた。

「ずっと和樹先輩のことを見てたんです。さすがに気付きますよ」

憂いを帯びたその微笑はとてもとても綺麗だった。
どうしてこうも恋をしている女の顔は綺麗に見えてしまうんだろう?
俺には不思議で不思議でしょうがなかった。
だけど、ゴメン。それでも俺は、君の気持ちに答えることは出来ないんだ。

「羽田‥先輩‥、ですよね?」
「‥‥ああ」

俺がそう言うと「やっぱり」と呟いて下を向いてしまった。
けれどその数秒後には顔をあげて、朝日さんは強い光を宿した瞳で俺を見つめた。

「こんなことを言うのはいけないと思ってます。でもっ、言わせてくださいっ」
「‥‥?」
「羽田先輩にはもう彼氏がいるんですよ!?彼氏のいる人を好きでいたって、幸せになんかなれっこない!! 」
「それでも、俺は留、‥羽田のことが好きなんだよ」
「それが不毛だと言ってるんです!!どうしてっ!?彼女なんかのどこがいいの!?最愛の彼氏のことを事 故なんかで忘れてしまう人ですよ!?」
「え、何でソレ‥」

朝日さんの口から事故の話が飛び出して、俺は目を丸くした。

「ねぇ先輩?もう、忘れませんか?このままでいたってあなたは幸せになれない。それとも、ずっとずっと 叶わない想いを抱いたままこれからを生きるんですか!?」

必死な形相で詰め寄ってくる朝日さんを前にして、俺は少し考えた。

「朝日さん。俺は、留美さえ幸せになってくれればそれでいいんだ」
「何を‥」
「俺の幸せは留美の幸せ。俺の願いは留美が幸せになることだけだよ。例え、留美が俺じゃない誰かを好き でいても‥俺はそれを応援するよ。その彼と幸せになれるように、俺の精一杯の力で協力するよ」

朝日さんは目に涙を溜めて唇をギュッと噛み締めながら、違う違うとでも言うように何度も何度も首を振っ た。

「そんなのっ、そんなの間違ってます!!先輩の幸せはそれだけじゃない!!もっともっと他にあるっ。私 がっ、私が先輩を幸せにするっ!だから、私と付き合いましょう?ね‥?」
「‥‥ゴメン」
「どうしてっ?私と付き合った方が、きっと楽になれるっ」
「‥‥俺は、楽になりたいわけじゃないんだよ。ただ、留美の幸せを願ってるだけ」
「っっ!!」

顔をぐしゃぐしゃに歪めたかと思うと、彼女は突然走りだした。

「 !? 」

わけもわからずに俺は朝日さんが走り出した方向に視線を向けて、彼女の背を見送っていた。
けれど、次の瞬間彼女の先にいた人の姿に気付いて俺は自然と駆け出した。


パンッ


追いついた時にはすでに遅く、朝日さんは見事に留美を平手で叩いてしまっていた。
その光景を見ていたのに、止めることが出来なくて俺の頭に一気に血が昇った。

「何やってんだお前は!!」
「‥っ」

思わず息を呑んで目を見開いた朝日さんに気付いた。
でも、その時の俺には手をあげることを止めることは出来なかった。
けれど、何も引っ叩くことは無かったのだ。俺が悪い。そう考えて一度目を瞑って気持ちを落ち着けさせた 。

「‥ゴメン」

ゆっくり目を開いて朝日さんを真っ直ぐに見つめて、そう謝った。
朝日さんは、ただ静かに首を横に振った。

「私もゴメンなさい。‥羽田先輩、いきなり叩いたりしてゴメンなさい」

朝日さんが頭を下げたのを見て、留美は慌てて「大丈夫。気にしないで」と言った。

「‥‥ゴメンな。驚かせて」

留美達を騒ぎに巻き込んでしまったことについて謝罪の言葉を述べて、俺は朝日さんの腕を掴んだ。

「来て。ちょっと話がある」
「‥‥はい」

朝日さんを連れて、極力人通りの少ない場所を探した。
漸く見つけた場所で、朝日さんの腕を離してお互いに向き合う形になった。

「‥あのさ」
「先輩っ!!」

話し出そうとしたその瞬間に、朝日さんが声を上げた。
俺の話を遮ろうとしたように出した少し大きめのその声に反応して、思わず押し黙ってしまった。

「和樹先輩が、羽田先輩のことを好きだっていうこと‥よく知ってます。どんな覚悟で、彼女を手放したの かも普段無意識に見つめている和樹先輩の目を見ていれば分かります」
「‥‥‥‥」
「でもね、先輩。私、諦めませんから。例え今は羽田先輩しか眼中に無くても、いつか私もその瞳に映って みせますっ。覚悟しといて下さいね?私、しつこいですから」

そして彼女はニコリと笑う。
こんな俺に、そこまで想ってもらえる資格があるのかどうか分からなかったけれど、そう想ってもらえると いうこと物凄く幸せに感じた。

「ありがとう」

俺の想いを認めてくれて。
そんな俺でもいいと言ってくれて。

ただそこで笑ってくれている彼女の気持ちに答えることが出来ないということが、申し訳なくて仕方が無か った。
けれど、彼女はそれさえも承知で俺のことを好きだと言ってくれている。
その気持ちが嬉しかった。朝日さんのその性格と笑顔に、好印象を受けたことは、嘘じゃない。


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