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ただ君の幸せを‥‥。

42.夢と現実



高校時代に見ていた夢。
私は名前も知らない、顔も知らない彼と一緒に幸せそうに毎日を過ごしていた。
最近、またその夢をよく見るようになっていた。
気のせいか、あの日からその夢は鮮明さを増してきているような気がする。


『いい加減和樹先輩を解放してあげてよ!!先輩さえいなければっ和樹先輩はっ!!』


私がいなければ?私がいなければ何だというの?
解放するって何?私の知らない所で、私は和樹君を縛り付けているの?
今また、私は、足りない記憶に悩まされるのだろうか?
皆が隠し続けている私の失った和樹君の記憶に、朝日さんが言っていることが関係しているの?
私が、和樹君を苦しめいてる?

ワカラナイ、ワカラナイ。

そして私は夢を見る。
現実での苦しみもがいている私を、夢は優しく包み込んでくれた。
けれど、その優しい夢が、最近少し恐ろしくなってきたのだ。
このままこの夢を見続けていれば、何か思い出してはいけないものを思い出してしまいそうで。恐ろしい。
だけど、あまりにもこの夢は心地よすぎるから、見ずにはいられない。


今日もまた、名前も顔も知らない彼の夢を見ることになる。


「留美!!今から言うこと‥‥笑わないで聞いて欲しい」
「えっ?‥‥う、うん」

ベンチに座る私を残して突然立ち上がった彼に少し驚く。
彼は、そのまま2・3歩前に歩み出て立ち止まる。
けれど、こちらを振り返る様子はない。
まぁ、例え振り返っても、私には彼の顔を見ることはできないのだけれど‥。

「これから、―――間高校生活―――て、俺達は二―――術大学に必ず合――る」

あれ?おかしい‥。

「‥‥四――大学――って、無事卒――ら‥‥その時は、留美の左―――指輪をはめた――う」

ちゃんと声が聞こえない。
大事なことを彼が話しているのに、何よりも幸せなその瞬間が待っているはずなのにっ。

「俺はまだ――キで、頼りなくて、周りから見れば ガキの夢だ―――しれない。でも 俺は、ガキ―――り に本気だよ」

声がっ。届かない!!
けれど夢は進行していく。
そして次の瞬間‥‥、私は‥‥‥

「羽田 留美さん。大学卒業したら、俺と結婚してくれませんか?」

「っっ!!‥‥和‥樹‥?」

驚愕に目を見開いて、その目からは涙が溢れていた。
いつもいつも彼を遮っていた光が今日は無い。
光の中から現れた彼は、愛しいと感じていた彼は、結婚を申し込んできた彼は、

「‥‥‥和樹‥君‥なの?」

ただ涙が溢れてきた。
それは止まることを知らずに、私の頬を伝い続けていた。
目を閉じれば甦ってくる膨大な記憶の数々‥‥

「何してるの?‥‥花?」

彼との出会い。

「そうだ!!ねぇねぇ、今日さぁ カメラあるんだけど‥‥写真撮らない?」

写真の苦手なあなたは、決まって申し訳なさそうな顔をして断ってきたね。

「ねぇ 知ってる?!駅前の方においしいパフェの店があるんだって!!」

甘い物の話を持ち出すと、この後の展開を予想して、いつもいつも渋い顔をしていたね。
だけど、優しいあなたは、必ず私の願いを聞いてくれていたね。ありがとう。

「―――‥‥和樹って、誰?」

あなたの驚愕で固まったその顔を忘れることが出来ません。

「やめて!!知らない!!あなたなんて知らない!!」

誰よりも何よりも大切だったあなたのことを、知らないだなんて言ってごめんなさい。
忘れてしまって、ごめんなさい。


ハッと目を覚ますと、まだ辺りは薄暗かった。

「‥っ‥」

夢だけど、夢じゃない。私は、思い出してしまった。
私が和樹と付き合っていた頃のことを‥‥。
私の感じていた恐怖はこのことだった。

「どうしてっ‥っ‥」

私は和樹のことを忘れてしまっていたの?
どうしてあんなにも優しい人を忘れることが出来たのだろう?
そして思い出す、達也君の彼女である現在を。
和樹と付き合っていたことを忘れて、恋の相談をした愚かな自分。

「なんてことを‥っ」

思わず両手で顔を覆った。もう、遅い。今更、一体どうしろっていうのだろう。
その時、コツンッと金属製のものが落ちた音が聞こえた。
ハッとして下を見下ろすと、暗闇の中でキラリと光るものを見つけた。

「あっ」

ベッドから抜け出して、慌ててソレを拾いに行く。
和樹に貰ったことを忘れていても、それが将来を誓った約束の物だと知らなくても、私は本能でその指輪を 大切に大切にしてきたのだ。
そして、手にとった瞬間ふと指先に触れた何かに気付く。

「 ? 」

何か溝のようなものを感じて、机の電気を点けてそれを確かめる。
その瞬間、目に映った光景に私は目を見開いた。

「っっ!!」

大きく開いた目からは、涙がボロボロと零れ落ちた。
視界がどんどん狭くなり、すぐに何も見えなくなった。 どうして今まで気付かなかったんだろう?
この指輪に刻まれていたメッセージに‥、どうして私はっっ。

『 Together forever T.K 』 ( いつまでも一緒に T.K )

「‥っ‥。和樹っ和樹っ和樹っ」

そのままそこにズルズルと座り込んで、指輪をギュッと両手で握り締める。
声を必死に押し殺し、私は、涙が枯れるまで涙を流し続けた。
甦った和樹との思い出と、過去に望んだ未来とは違う人生を歩んでいる現実に涙を流し続けた。

「ごめんなさいっ。ごめんなさいっっ」

和樹に謝っているのか、達也君に謝っているのか、私自身にも分からなかった。
ただ悲しくて、涙が出た。


悲しみの海に躊躇いもなく放り込んでしまった私を許してとは言いません。
許されないほどの悲しみを、私はあなたに与えてしまったのだから‥‥。


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