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ただ君の幸せを‥‥。

43.少しの油断



どんなに過去に戻りたいと願っても、戻ることなんて出来ない。
タイムマシンで過去に戻れたとしても、過去を変えることは許されない。
なら。私が歩むべき道は、和樹の記憶を失う未来だと生まれたときから決まっていたのだろうか。
大好きなあなたを忘れてしまうことが、私に与えられた試練だったのでしょうか?


春。
満開に咲いて、風に煽られて舞う桜が美しい。
地面から力強く咲き乱れる花たちが美しい。

3年に上がる前のほんの少しの休み。
私はぼんやりとしながら街中を歩いていた。
あの日、和樹の記憶が戻って以来、考えることが多くなった。
友達の前や達也君の前では、その異変に気付かれないように気をつけてはいる。
でも、ひとりになると‥やっぱり考えずにはいられない。
しばらくは、うなされる日々が続いた。


『どうして俺のことを忘れた?』

『あの日誓ったことは嘘だったのか?』


夢の中で責め立てられて、私は弁解も出来ずに彼の姿を呆然と見つめる。
違うと言いたい。でも、何も違わないのだ。
私が彼のことを忘れてしまったのも本当。あの日誓ったことを守れないのも本当。
夢から覚めて、頬が涙で濡れていることに気付く。
そっとそれを拭いながら、あの頃に戻ることが出来たなら。と願う。
叶わないと知りながら、それでも神に願おうとする。
もしもあの頃に戻れたらならば、私は和樹の記憶を失うことは無かっただろうか?
事故を上手く回避することが出来ただろうか?和樹を傷つけずに済んだだろうか?

「羽田さん?」

後ろからそう声を掛けられたが、ぼんやりとしていたために反応するのに少し時間が掛った。

「やっぱり」

私が後ろを振り返る前に、声の主が目の前に回りこんできた。
少し目線を上げて、その人物を確認する。意外な人物がそこに居て少し驚く。

「ぁ、葉瀬倉君‥」
「久しぶり」

葉瀬倉 要。
葉瀬倉君は和樹の友達で、高校のときでいう達也君のポジションに居る。
あまり私とは接点が無かったんだけど、達也君の知り合いかなんかで数回顔を合わせたことがある。
あとは、大学の食堂とかでたまに会うぐらいだった。
特に親しいわけでもないのに、どうして声を掛けられたのかよく分からなかった。


********


「て、ことなんだけど」
「あ〜うん。分かった」

そんなに時間は掛らないからということで、近くの公園で話をすることに決めた。
ベンチに腰を下ろして話を聞いてみると、中学時代の集まりが今度あって達也君も来ないかという誘いだっ た。

「俺は、途中で転校したからあんまり関係ないんだけどな。たまたまダチに斎藤さんと会ったこと話したら 連絡しといてくれって頼まれて」
「そっか」

中学時代の友達‥‥。
それには、彼も行くのだろうか?だって、彼は達也君と中学から友達だったはずだ。
そう思い至った瞬間。自然と口が開いていた。

「それには和樹も行くのかな?」
「‥あ〜どうだろう。和樹は2年の終わりに転校してきたらしいし‥‥って、え?」

驚いた顔で私の顔を凝視する葉瀬倉君。
その意味が分からなくて思わず首を傾げた。

「どうかした?」
「いや‥‥。何でそんなこと聞くんだ?」
「何でって‥。和樹も達也君と同じ学校だ‥し‥‥」

しまった。と思ったときには遅かった。
私は事故に遭って以来、和樹のことは君付けで呼んでいた。
葉瀬倉君の前でもそれは同じことだった。
けれど今、その葉瀬倉君の居る前で私は『和樹』と呼んでしまった。
もしかすると、それだけでは気付かなかったかもしれない。
けれど、明らかに葉瀬倉君は私のことを疑う眼差しで見てきている。
動揺を隠しきれていない私に、もう逃げ場は無いのかもしれない。

「お前、もしかして‥‥」

ゴクリと唾を飲み込む音が鮮明に聞こえた。
冷たい汗が流れ落ちる。


「記憶戻ってるのか?」


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