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ただ君の幸せを‥‥。

6.色の無い世界



「おい達也!!金貸してくれないか?今日弁当忘れてさ」

教室の入り口から、俺に軽く手を振りながら和樹が声をかけてきた。
和樹とは、1・2年の時に同じクラスだった親友だ。
残念ながら、高校生活最後の年の3年では同じクラスになれず、 隣のクラスだった。

「バカだなぁ。忘れてくんなよ。弁当ぐらい」
「うるせー」

仕方なしに席から立ち上がり、和樹のもとに向かう。
元気に笑っているが、本当に‥‥元気なんだろうか?

「ほら。ちゃんと返せよ」
「分かってるよ。じゃ、金 ありがとな!!」

売店に向かって早足で和樹は駆けて行った。
和樹の去ったあとの教室は、少しだけザワザワした。


「ねぇ、さっきのって‥‥。羽田さんの彼氏だった人だよね?」
「だよね。‥‥もう、元気になったんだね」
「うん。‥‥よかったよね。元気になって‥‥。 だって、私達は直接的に関係はなかったけど、見てて可哀想だったもんね」


噂好きの女子は、どんな情報も早くて、 留美ちゃんが和樹のことを忘れてしまったことも クラスメートが話しているのを聞いて知った。
でも、和樹の口から話を聞くまでは、何も知らないフリをした。


『元気になったんだね』


何処をどう見たら、そう見えるっていうんだろう?
留美ちゃんが事故に遭う前と遭った後では、笑い方が全然違うのに‥‥。
最初の頃は、誰から見ても分かる 泣きそうな笑顔だった。
でも 今は、妙に大人びた笑い方をするようになった。
そして、時々 無理して笑ってる。

そうさせているのは、紛れも無い 俺達だった。

あいつは、優しい奴だから みんなに心配かけまいと、 必死で笑顔を振り撒いて、「仕方ないよ」と言って笑ってみせた。
そんな和樹を見てるのが、みんな辛かった。
最近は、前よりまともに笑えるようになり、 違和感を覚えるのは 俺くらいのもんだった。


『―――‥達也?もう、聞いたかもしれないけどさ‥‥。
留美‥‥俺のこと、覚えてないんだ』


あの時、電話で聞いた 和樹の悲痛な叫びを、 半年以上経った今でも忘れない。

何も出来なかった自分がものすごくちっぽけだった。
和樹のために、出来ることがあるなら何でもしてやりたかった。
今まで、何度も何度も助けられてきたから‥‥。


電話がかかってきた日の次の日に、 俺は和樹と海の見える公園で話をした。


「なぁ、達也。お前の世界は‥‥今 何色だ‥?」

ベンチに座り、遠くを見つめる和樹は 俺を見ずに問い掛けた。
俺は、まったく質問の意味を理解出来ず、 困った顔をして和樹を見ていた。

「俺の世界は‥‥‥モノクロなんだよ。‥‥色が無いんだ」

俺が黙っていると、和樹は勝手に話し出した。
もしかすると、俺に何か答えを求めている訳ではなく、 今はただ 話を聞いて欲しいだけなのかもしれない。

「―――‥留美がっ、留美がいないと‥‥ 俺の世界は、終わってしまうんだ」

和樹と友達になってから、 こんな悲痛な声を聞いたのはこれが初めてだった。
和樹は涙を流さないように頑張っているのか、少し顔を空に向けた。

「―――‥泣いても、いいんだぞ」

気付いたら、そんな言葉を和樹に伝えていた。
すると和樹は、力無く微笑んだ。

「もう、泣いたよ。‥‥昨日、ここで。 ‥‥‥情けないくらいにさ」

本当に聞いてやるだけでいいのか?
何か、何か和樹に‥‥言ってやれることは ないのだろうか?

「―――‥でも、いつまでも引きずってちゃ‥‥ダメなんだよな。 もう あの頃には戻れないから‥‥」
「‥‥和樹‥」
「俺さ、決めたんだ。留美の重荷にはならないって‥‥」
「‥‥重荷って、どういうことだよ‥‥」


「俺と付き合ってたこと、留美には言わない」


「どうして!?」
「だってさ、きっとあいつ‥‥思い出そうとするだろ? 俺に気を使って、思い出さなきゃいけないと思って。 でも 俺はさ、留美にそんな気を使わせたくないんだ」
「‥‥‥‥‥」
「俺のせいで、留美の今からを潰すわけにはいかないだろ? 必ず思い出すという保証があればいいけど、 思い出さなかったら‥‥重荷になるだけだろ?」

和樹が留美ちゃんのことを、 どれだけ好きかは知っているつもりだった。
でも、俺が考えていたよりも 和樹は留美ちゃんを真剣に好きだったんだ。

「俺さ、留美には幸せになって欲しい。 だから、俺のことは もういいんだ」

和樹はベンチから立ち上がり、俺に向かって微笑んだ。

「なぁ。お前、留美のこと好きだったろ?」
「‥‥‥は?」
「隠さなくてもいいよ。‥‥お前が、今度は頑張れよ」
「何をだよ‥‥?」
「留美のこと。‥‥じゃな」
「えっ?おっ、おい!!」

俺は、去っていく和樹の後姿を ただ呆然と眺めていた。


確かに俺は、留美ちゃんが好きだったよ?
でもさ、それ以上に‥‥ お前と付き合ってた幸せそうな留美ちゃんを見てるのが好きだったんだ。
なぁ、お前は知ってるのかよ。
お前が俺の憧れだってこと。


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