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ただ君の幸せを‥‥。

7.移りゆく気持ち



俺達が高校三年生になって、もう二ヶ月が経った。
そして、留美が俺のことを忘れてから‥‥もう、一年が経つ‥‥。


アレは、確か9月頃だったと思う。

『なぁ。お前、留美のこと好きだったろ?』

達也は俺の親友で、 達也が留美に想いをよせていたのを知っていたから、 俺はあの時 あいつにそう言った。
達也になら、留美を任せてもいいと思ったから。
もう、自分では留美を幸せにすることが出来ないから。

でも、本当は、何となく予感がしていたのかも知れない。
いつか留美は、達也のことを好きになるんじゃないか。という予感が‥‥。


「おはよう!和樹君!!」
「あぁ、おはよう」

教室に入った途端にかけられた、 忘れたくても忘れられない留美の声。
皮肉にも神様は、 俺と留美を最後の最後で同じクラスにしてくれた。


どうせなら、もっと早くにしてくれればよかったのに‥‥。


俺ももう慣れたもんだ。
留美にあいさつされても、 友達として普通にあいさつ出来るようになった。
最初の頃は、毎回毎回ちょっとした抵抗感があった。
どうして‥‥?って思うことも多々あった。
でも、もう今は本当にいい友達として接することが出来るようになった。
もっとも それは表面上のことだけであって、 今でも辛くて痛くてしょうがない。

「ねぇ、和樹君」

少し声のトーンを落として、 俺にだけ聞こえるように留美はそっと囁いた。

「何だよ‥‥?」
「あのね、ちょっと‥‥相談したいことが」

「‥‥相談‥‥?」


その言葉を聞いたとき、 俺はスッと背筋に嫌な汗をかいたような気がした。


留美は「昼休みになったら聞いてくれる?」
と言って、自分の席に戻っていった。

なんとなく、相談の内容は 分かる気がした。
だって俺は、ずっと留美のことを見てきたんだから‥‥‥。
留美が誰を見てるかぐらい、‥‥分かってるつもりだよ。


そして、昼休みがやってきて俺達は屋上にやってきた。


「ふぅ〜。いい風だね〜」
「そうだな」

留美は少し緊張しているのか、 不自然な動作でのびをした。
そんな留美を見て、 俺は留美に気付かれない程度に少し笑ってしまった。

「で、相談ってなんだよ?」

どう切り出していいのか迷っているに違いない留美のために、 俺から話をふることにした。
でも 本当は、聞きたくないのかもしれない。
聞いてしまえば、もうあとには戻れないから。


「うん。あのね‥‥達也君って、彼女いるのかな?」


やっぱり。

いつ頃からだったか、留美は達也の姿を目で追うようになっていた。
それに気がついたとき、
俺は あぁ、とうとうこの日がやってきたんだな と思った。
そして、少しだけ‥‥胸が痛んだ。

「いないよ」
「そうなの!!」

あからさまに喜んだ顔をする留美を見て、 俺は少し寂しかった。

「―――‥達也のこと、好きなんだろ?」
「えっ?えっと、その」
「隠さなくてもいいよ。バレバレだって」

留美の焦り方を見て、俺は苦笑する。

「今日の相談って、達也のことだろ?」
「――――‥うん」


俺に、相談なんかしないで。


俺の心の奥深くで、そんな声が鳴り響く。
でも俺は、いくら自分が辛くても感情が冷め切ってしまうとしても、 それでも、留美には幸せになって欲しいから。
自分で留美を幸せに出来なかった分、 留美の幸せを願って、手助けをしたいと思うから。


だから、‥‥‥留美の新しい恋を実らせるために、俺は‥‥‥。


「頑張れよ。きっと上手くいくよ」
「‥‥でも」
「大丈夫大丈夫。勇気だせって。な?行動あるのみだよ」
「‥‥そうだよね。うん!私、頑張るよ」
「おう!その調子その調子」


いろんな決意を胸に秘め、 留美は新たな恋への第一歩を踏み出した。


お前は俺と付き合ってたんだよ。


心の奥深くで鳴り響くその声は、きっと俺の本音。
でも、今の俺に 留美を止める権利はないだろ?
留美の幸せを邪魔するわけにはいかないだろ?

後悔は後から後から押し寄せてくるけど、 達也なら 留美を幸せに出来ると思うから‥‥。
達也になら、留美を任せても大丈夫だと思うから。


だからさ、達也。‥‥留美のこと、頼むよ‥‥。


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