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ただ君の幸せを‥‥。

8.強い意志、切ない背中



「なぁ、達也。お前さ、今でも 留美のこと好きだよな?」
「‥‥突然なんだよ」
「いいから、答えろよ」
「‥‥そりゃ、友達だし。もちろん好きだよ」

昼休みなんとなく和樹とやって来た屋上で、 和樹はそんな話をし始めた。
何故か かなり真剣な顔をして話す和樹に、 俺は少し不信感を覚えた。

和樹は俺の返答に、 少し驚いた顔をした直後 苦笑いをした。

「達也。‥‥友達とかじゃなくて、 恋愛感情で留美のこと好きだろって聞いてるんだ」

俺は返答に困った。
一体和樹は俺に何て答えて欲しいんだ。

「俺のことは、気にしなくていい。 だから、本当のことを言って欲しい」

俺は、躊躇いながらも 本当のことを言う決意をした。


「あぁ。好きだよ。‥‥ずっと、好きだった」


その返答を聞いて、 和樹は少しホッとしたような でも、少し悲しそうな顔をした。

「‥‥そっか」

その声は、諦めにも似た切なさを含む声だった。
その声の変化に気付いても、 俺はなにもしてやれることが出来なかった。

「‥‥‥‥留美のこと、頼むよ」
「なっ、何‥‥言ってんだよ」

和樹は俺を真っ直ぐ見詰めて、同じことをもう一度言った。


「―――‥留美のこと、頼むよ。達也」


その時の俺は、 和樹の言ってることがまったく分からなくて、 理解出来なくて、ただ戸惑うだけだった。

でも、 和樹の言葉の意味を知るのは、 そう遠い未来のことではなかった。

********

「和樹。‥‥ちょっと話がある」
「‥‥‥そうか」

和樹と屋上で話したあの日から、 ちょうど一ヶ月ぐらいが経った頃、 俺は和樹をもう一度屋上に連れ出した。


「で?話ってなんだよ?」

目の前で、何も知らない顔をして微笑む俺の友人は きっと今からする話の内容を知っているのだろう。
それなのに、知らないフリをする和樹に俺は少し腹がたった。

「‥‥‥分かってるんだろ!?」

声を荒げる俺を見て、 和樹は少し切なげに顔を歪めながら それでも微笑んだ。

「‥‥まぁ、大体の予想はついてるよ」

和樹の穏やかな喋り声を聞いて、俺はなおさら腹が立ってくる。

「―――‥留美ちゃんに、‥‥告白されたよ」

今にも和樹に掴みかかり、 怒鳴り散らしそうな理性を寸での所で押さえ込み、 和樹の返答を待つ。

「そっか。‥‥よかったな。これで、お前達は両想いだ」
「っ!!そんなことが聞きたいんじゃない!! お前が言ってた、留美ちゃんのこと頼むって‥‥このことかよ!?」
「そうだよ。‥‥それ以外に何があるっていうんだ?」
「‥‥‥お前は、それでいいのかよ。 俺が、俺が、留美ちゃんと付き合ってもいいのかよ。 それでお前は いいのかよ!!」
「‥‥‥‥いいんだよ」

和樹のあっさりとしたその答えに、 俺はまた理性を押さえ込むの必死になった。

「何で!何で お前はそれで納得してんだよ!! お前だって、留美ちゃんのこと好きなんだろ!? 留美ちゃんと付き合ってるのは――――」


和樹。お前だろ‥‥?


「終わった話だよ。‥‥‥留美は、今 達也が好きなんだ」
「っ!でもっ!お前は、お前は‥‥留美ちゃんが好きなんだろ?」

俺の言ったことは、きっと何一つ間違ってない。
だって和樹は、間違いなく今でも留美ちゃんのことが好きだ。
それなのにどうして、どうしてお前は、 留美ちゃんのことを手放そうとするんだよ!?

「‥‥そうだな。俺は、今でも留美が好きだよ。 何よりも誰よりも、留美のことだけが好きだと誓えるよ」
「ならっ!!」
「でも、それだけなんだ。 ‥‥今の俺には、留美を幸せにすることは出来ない。 今、留美が選んだのは 達也、お前なんだよ」
「‥‥和樹っ!」
「なぁ、分かってくれよ。 俺は、もう留美と付き合うことはないんだよ。 留美の未来に、俺はもういないんだ。 あの日、たくさんの思い出と共に、全部消え去ったんだよ」
「‥‥和樹っ!!何言ってんだよ!!」
「達也。よく聞いて。 俺には、留美の幸せを奪うことは出来ないんだ。 今の俺には、そんな権利 ありはしないんだ」
「そんなこと‥‥」

口を挟もうとする俺に、和樹は苦笑する。

「いいや。ないんだよ。 ‥‥‥だって、留美の記憶の中に立石 和樹という人物は 存在していないんだから」


何も、言えなかった。
和樹のその言葉を聞いて、俺は何も言えなかった。
何て言葉をかけていいのか分からなかった。
いつか思い出すときがくるかもしれない。
でもそれは希望であって、確実にやってくる未来じゃない。


「達也、俺のことは気にしなくていい。 留美のことが好きだからこそ、留美の幸せを願ってる。 お前なら、留美のこと大切にしてやれるだろ?」
「‥‥‥でもっ」
「‥‥無理強いはしない。あとはお前の気持ち次第だ」

和樹は軽く笑って、意志の強い声で言った。

「俺は、お前達が上手くいくことを祈ってる」


その時ちょうど休み時間終了のチャイムが鳴り、 和樹は「じゃぁ、俺戻るわ」と言って足早に去っていった。
でも俺は、 和樹のその去っていく背中を眺めたまま その場から動けなかった。

「どうしてお前は‥‥」


――――そんなに一途で、 たった一人の人をそんなに好きでいられるんだよ。


「ばかだよ。お前‥‥」


――――留美ちゃんのこと、あんなに好きなくせに‥‥。 どうして、あんなことが言えるんだよ。


『俺は、お前達が上手くいくことを祈ってる』


自分の無力さを呪った。
何か、何かしてやりたかったのに、何もしてやれない。
自分に何が出来るのかさえ分からない。

なぁ、俺が留美ちゃんと付き合えば お前はそれで満足なのか‥‥?



その後、俺は留美ちゃんと付き合い始めた。


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