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ただ君の幸せを‥‥。

番外編・花は其処で咲いていた



入学して間もなく一ヶ月が経とうとしていた。
友達も難なく作ることが出来て、何の不自由もなく高校生活を送っていた。中学からの友人の達也もそれな りに楽しく過ごしているようだった。

「なぁなぁ知ってるか?1組の羽田って奴結構可愛いらしいぜ?」
「知ってる知ってる。〇〇中の奴だろ?」

そんな会話が繰り返される中、俺は興味を示さずにただぼんやり窓の外を眺めていた。すると、そこから見え る中庭の大きな木の下で寝ている達也を見つけた。

「え‥‥」

慌てて教室の正面の壁に掛っている時計を見上げる。授業開始まであと5分も無かった。今、起こしにいか なければあいつは確実に遅刻する。そう思ってイスをガタッといわせながら勢いよく立ち上がる。

「どうかしたのか?」

急に立ち上がった俺を見て、それまで話していた友達が俺を見上げて不思議そうに問う。

「いや、ちょっと達也起こしに行ってくる」
「斎藤〜?」

そうだと言って窓の外を指差す。友達はそれをチラリと眺めた後に俺をもう一度見上げて呆れたような声を だした。

「お前もホントお人よしだなぁ。早く戻ってこいよ」
「分かってる」

それから教室を飛び出して達也の所まで全力疾走で走っていく。

「達也っっ!!」

教室から見えた状態のまま、達也はまだぐっすりとそこで眠っていた。それを見つけて俺は思い切り怒鳴り つける。達也は眩しそうに目をうっすらと開けて呑気に俺の名前を呼んだ。

「‥‥和樹?なんだよ」
「何だじゃないだろ?もうチャイム鳴る」
「マジで?俺そんなに寝てたっけ‥‥」
「いいからっ。早く戻るぞ」

鈍い動作で立ち上がる達也をじれったく眺めていると、近くにあった綺麗な花壇が目に入った。やっと立ち 上がった達也が俺の視線の先を辿る。

「あの花壇がどうかしたのか?」
「えっ、いや?っと、早く行くぞ!!」

達也に指摘されて、花壇に目を奪われていたことに気付く。今は花を呑気に見ている場合ではなかったため 慌てて教室に向かって走り出した。けれど、教室に戻る道のりで 俺はまたあの花壇を眺めに行こうと心に決 めていた。


********


一週間後には、中庭にある数少ないベンチは俺の指定席になってしまっていた。
達也の寝ていた木の下でのんびりすることも出来たのだけれど、あそこは達也がほとんど占領しているので 諦めた。幸いここのベンチはあまり使われることはないらしく、いつでも基本的にはあいていた。
今日の昼休みにも、友達には断ってからここにやってきた。最近はここに本を持ってきて読むようにしてい る。

「 ? 」

ふと、花壇の中でどうも元気のないように見える花を見つけた。吸い寄せられるようにソレに近づきしゃが み込む。

「あ〜あ〜」

他の花は綺麗に立っているけれど、何故かその一本だけ折れかけていた。気付いてしまったからには放って おくことも出来ず俺は袖を捲くりあげて土を少しだけ掘り返した。

「何してるの?‥‥花?」

誰もいないと思っていたから、背後からかかった声に心底驚いた。

「えっ?」

間抜けな声を出してしまった俺にニコッと笑いかけて背後に立っていた彼女は口を開いた。

「羽田 留美です。よろしくね」
「立石、‥和樹です。こっちこそよろしく」

彼女の笑顔に目を奪われながら、俺は戸惑いつつそう答えた。

「で、何してるの?」
「花がさ、倒れてたから――」
「植え直し?」

そう言って彼女は俺の隣にしゃがみ込む。そんな簡単にしゃがみ込んでしまったらスカートが汚れるんじゃ ないか?そんな余計な心配を考えてしまったが、彼女は別に気にしていないようだった。そして、俺の手元 を覗きこんで微笑む。

「珍しいね。立石君みたいに、花のこと気にかけてる男子生徒見たこと無い」
「‥‥‥‥」
「あっ、別にけなしてるんじゃないよ?ただ、いいなぁって思ったの」
「‥‥‥?」
「みんなが気付かないような、気付いてても知らん振りをするような小さな変化に気付いて何かしてあげる とこ」
「別に。たいしたことじゃないよ」
「たいしたことだよ」

そう言って、彼女はまた微笑んだ。その表情にまた目を奪われる。

「私も手伝うよ」

俺はきっと彼女に一目惚れをしたのだった。花のように笑う彼女の笑顔に。
その時はまだ、気付いていなかったけれど。


********


数日後、あの日折れかかっていた花は綺麗に咲いていた。他の花たちに負けないぐらい、色鮮やかに咲いて いた。

移動教室の際に、廊下で彼女の姿を見つけた。その時に彼女も俺の姿を見つけて嬉しそうに駆け寄ってきた。

「ねぇ、あの時の花。ちゃんと綺麗に咲いてたね」

そう言ってまた笑った彼女。

「ああ。綺麗に咲いてたよ」

彼女の笑顔は花のように綺麗だった。そう、其処にはすでに花は咲いていたのだ。

それから俺は、彼女への恋心を自覚する。


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