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ただ君の幸せを‥‥。

番外編・優しさの理由



ずっとずっと不思議だった。
彼が無条件に誰にでも優しいことが‥‥。



それは、ぽかぽか温かい春のこと。春といっても、もう梅雨に近い時期だったけれど。

「留美っ」

ボーっとベンチに座ってある人を待っていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声が耳に届き、私はパ ッと声の聞こえてきたほうに顔を向ける。

「ゴメン。待ったか?」
「そんなに待ってないよ」

急いで走ってきたのだろう、彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいて息も絶え絶えだった。

「ゴメンな。じゃ、帰るか」
「うん」

言い訳もしないで、謝ることだけ忘れないで彼は私の手を引いて歩き出す。

「ねぇ、和樹」
「ん?」
「委員会、長引いてたんでしょ?」
「あ〜、うん。そう」

和樹はバツの悪そうな顔をして口を開く。

「本当にゴメン。早く終わるとか言って、かなり待たせて」

私は首を横に振って笑った。

「いつも私が和樹のこと待たせてるんだから、気にしないで」

その言葉を聞いて、和樹はホッとしたように微笑む。
和樹は知らないと思うけど。私ね、和樹のその優しい笑みが大好きなんだよ。その笑顔を見ると、辛いこと も忘れて心が軽くなる。

でもね、たまに言いたくなるよ。無理して笑ってない?って。

「どうした?」
「ううん。何でもない」

そう言って、今度は私が和樹の手を握って歩き出す。それから、ふと思い出したように彼のほうに向き直り 和樹の頬に手を伸ばす。

「痛い?」

彼の頬や手足には、傷が沢山ついていた。

「痛くないよ。大丈夫」
「‥ホントに?」
「ホントだって」

殴られて蹴られて、そうやってついた傷が痛くないはずがない。薄っすらと青くなってるこの痣が痛くない はずがない。

「冬留のこと、助けてくれてありがとう」
「今更‥」
「そうかもしれないけど、コレ見たら‥‥言いたくなるの」

何とも言えない顔をして、和樹は困ったように笑う。

「別に、大したことじゃないって。それに、ホントに痛くないんだ。こんなの痛いうちに入らない」

私は、たまに和樹のこの優しすぎる嘘に胸が苦しくなる。
付き合い始めてまだ間もない。ひと月も経ってない。けれど、私はどうしても聞きたかった。

「どうして和樹は‥‥そんなに優しいの?私にまで、嘘吐かなくていいのに。痛いなら痛いって、言えばい いのに」

苦しくて、私は和樹の顔を見ることが出来ずに俯く。だから、優しく微笑んだ和樹には気付くことはなかっ た。
優しく温かい手の平が頭の上に置かれたのを感じ、私は俯いていた顔をそっとあげる。

「馬鹿だなぁ。お前が悲しむ必要なんて無いのに」

困ってる?
でも、その困ったような笑顔に少しだけ‥‥嬉しさが滲み出ているように見えるのは気のせいかな?

「俺は優しくなんかないよ」
「そんなことないっ!!」
「ある」
「ないっ」

意地になって言い返す私を落ち着かせようと、和樹はポンポンと頭を叩いた。

「そうムキになるなって」
「だって和樹がっ」
「ほらまた」
「〜〜〜っ!!」

頬を膨らませる私を見て和樹は吹き出した。そしてポツリと「不細工な顔」と呟く。

「うるさい!!」
「ゴメンって」
「もう知らないっ」

憤慨して歩き出す私を後から追いかけてくる和樹。
少し駆け出し気味の早歩きで歩く私に、普通に歩いて楽々追いつく和樹が何故か今だけ腹立たしく思った。

「なぁ留美」
「何よ」
「俺のしてることっておかしいか?」
「え?」

妙に固い声が聞こえてきて、変に思い立ち止まる。それからそっと振り返ってみると、和樹も立ち止まって いた。

「俺がしたことを‥留美達は優しすぎるって言う。けど、俺はそう思わないんだ」

そっと数歩戻って和樹の側へ行く。

「助けたいと思ったから助けた。力になりたいと思ったから口を出した。優しいわけじゃない。俺には、こ れが普通なんだよ」
「でも‥‥、それで傷付くことだってあるんじゃないの?」

少し考えるように黙り込む和樹。私はただじっと和樹の答えを待っていた。

「あるよ。俺だって人間だから、傷付くことぐらいある。でも、傷付くことを知っていても助けたいって思 うんだ」

それから思い出したようにして、和樹は突然笑った。
その笑いが何処からにきたのか分からずに困惑する私。

「前に一度言われた。


『お人好しすぎるにも程があるだろ。この馬鹿』


ってさ。その時にしたことも、俺は後悔してないんだ。この先、俺がこういう偽善者じみたことをすること によって後悔するときがくるかもしれない」
「うん」
「けど、自分が望んだことだから。後悔しても、それを希望に変えることが出来るように頑張るよ」
「‥‥希望に変えることが出来なかったら?」
「さぁ?その時はその時考えるよ」

和樹の言葉が胸に染みた。
ああ、私って凄い人を好きになったんだな。

「この話はこれで終わり。帰るぞ」
「え、ちょっと待ってよ!!」

さっさと歩き出した和樹の後ろを慌てて追いかける。


ねぇ、和樹。偽善者だなんて言わないで。
だって和樹の優しさが本物だってこと、私はちゃんと知ってるから。




* あとがき *
理由と書いて、ワケと読め。
というわけで、『優しさの理由(りゆう)』ではなく『優しさの理由(わけ)』でよろしくお願いします(笑) 和樹はこの性格のせいで、後々切ない選択をすることになってしまうのですね。選択させたのは間違いなく 筆者であるこの私だというのは秘密で(は?)

風花『頑張れよ!!和樹っ』
和樹『‥‥ほっといてくれませんか?』
風花『‥‥‥(冷汗)』

それではっ!!本編のほうもお楽しみに☆★
2005.08.25


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