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『お前もする?』

その何ともない一言が、私には大切な言葉だった。


「有紗っ!!またサッカー見てるの?」
「うん」

何処にでもあるような学校のサッカー部。
私の通う学校のサッカー部は、弱小部で練習試合でさえも勝った事が無かった。 去年までは――――。

「でもさ、ホントよくやるよね尾沢も。一人でここまで部をそれなりのものに作り上げるなんてさ」

尾沢 秋広。2年生にしてキャプテンを務めている。
我が校のサッカー部に入学と同時に入部して、活気の無いサッカー部を立ち直らせた。 その人一倍のやる気と周りを巻き込むような明るく強気な性格は、誰もが羨むものだった。
最初の頃は皆が馬鹿にしてた。

あのサッカー部を強くするなんて、ただの夢物語だと。

サッカー部を強くすると尾沢一人が言ったところで何の解決にもならないと、皆がそう思ってた。 サッカー部の状況を良く知らなかった新入生の私達でも、そう思ってた。
けれど、尾沢の呼びかけは皆の燻っていたやる気を呼び覚まし、 夏頃には一丸となって来年に向けてトレーニングを行っていた。
残念ながらもその時の三年生は、試合でちゃんとした成績を残すことは出来なかった。
でも、尾沢が入部したことによって真面目に練習をし始めていた先輩方。その気持ちや成果を無駄に は出来なかった尾沢は、引退試合だということで夏が終わる頃に他校に練習試合を申し込んだ。

『これが最後の試合です。悔いの無いよう戦って下さい』

そう言った尾沢を私は少し離れたところで聞いていた。

結果は2対1の勝利だった。相手校がさほど強い学校じゃなかったことも勝因だったかもしれないが、 尾沢が入部する前までは、考えられない試合の結果だった。
そこからだったかな、みんなの弱小サッカー部の見方が変わったのは。

「そういえば、今年はあんたどうするの?」
「何が?」
「何がって、チョコに決まってるじゃない。もうすぐバレンタインでしょ?」
「‥‥まだ、渡すかどうか決めてない」
「そうなの?」
「うん。でも、‥‥その前に告白はするよ」
「あぁ、そうなの。‥‥‥はぁ!?」

素っ頓狂な声を出して目を見開く綾香。
まぁ、確かに唐突だったかもしれない。告白するなんて話、今まで一度だってしたことなかったから。
でも、私の中ではもう決意は固まっていた。それは高校に入学したあの日、体育館で尾沢を見つけた時 から決めていたことだった。

もう一年、尾沢のことを知ったら必ず告白しようって。

「ちょっとちょっと本気?すっごい突然じゃない!?今 告白するんなら、バレンタインにチョコと一緒 に告白したほうが良くない?」
「それだと、色々間に合わないかもしれないから」
「‥‥有紗」
「これが、最後のチャンスになるかもしれないから」

バレンタインまで待てるものなら、待っていたかった。
でも、その日まで待てるという保証はどこにも無いから、今のうちに告白しようと思うんだ。 後悔だけはしたくない。その思いだけが、私のなかを占めていた。

「そんなに暗くならないでよ、綾香。私は、大丈夫だからさ」
「‥‥でも、無理しないでね」
「分かってる」
「‥‥告白は、いつするの?」
「明日にはしようと思う。‥‥行動は、なるべく早く起したほうがいいしね」
「そっか、‥‥頑張ってね」
「‥‥ありがとう」

勝負は明日。どんな未来が待っていても、その一瞬一瞬を無駄にはしない。


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