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私 と 彼 と 時 間
13
「そうだ。お前が、怖くならないように俺と一つ約束しよう」
突然思いついたように尾沢がハッと顔を上げて声を出した。
何を言ってるんだという顔をしたまま私は 尾沢を見上げる。
「お前が無事に退院出来たら、あの公園でもう一度会おう?」
「えっ?」
「俺たちの始まりのあの場所から、もう一度やり直そう?な、それなら‥‥お前も少しは勇気が出るだろ?
」
真っ直ぐに見つめてくる尾沢の目を初めてきちんと見つめ返すことが出来たような気がした。
「俺に会うために、生きる意志を持て。これからを作るために、生きようと思え。可能性は0じゃない。希
望は、‥‥まだ充分にあるだろう?」
あなたの生き様を尊敬するよ。
真っ直ぐすぎるあなたの目に、影響された人は私だけじゃない。
サッカー部の人たち、サッカー部を蔑んでいた人たち。みんなみんな、尾沢のその真っ直ぐすぎるその心に
引き込まれていったんだよ。
あなたの言葉は、時にはすごく邪魔に思うかもしれない。でも、相手のことを本当に思ってあげていること
がよく伝わるから、だから、最後には その言葉に救われるんだね。
「‥‥ありがとう」
頬を伝うその涙を、彼はそっと拭ってくれた。優しい笑みを浮かべたまま。
「‥‥約束、守れよな」
「うん」
待ってるからな。そう言い残して、尾沢は病室を出て行った。
入れ替わりのように、その数分後 お母さんが戻ってきた。
「有紗?どうかしたの?」
「‥‥どうして?」
「さっきより、随分気分がよさそうだから」
どうしてか分からない。そんな表情のまま、持ってきた荷物を下に降ろす。
「お母さん。私、‥‥手術頑張るね」
「!?」
「‥‥可能性は、0じゃない。‥‥よね?」
こくこくとただ頷くばかりのお母さんを、不思議と落ち着いた気持ちのまま見つめることが出来た。
生きようという意志を持つことが、こんなに大事なものだと思わなかった。
どんなに考えを改めても、死の恐怖を完璧に拭い去ることは出来ない。
でも、今こんなにも穏やかな気持ちでいられるのは、きっと尾沢が背中を押してくれたせいだね。
―――「お前が無事に退院出来たら、あの公園でもう一度会おう?」
その約束を守りたいと思う。守ろうと思う。
今度目が覚めた時、一番にあなたとの約束を思い出すよ。
早く早く元気になって、あなたに必ず会いに行くよ。
だから、お願いだから待っていて。
私たちの‥‥‥始まりの場所で。
***あとがき***
初のバレンタインデー企画です☆★
バレンタインをテーマにした話だというのに、全然甘くない(汗
しかも、ここで終わりかい!!というところで、終了(チーンッ
現段階で、『私と彼と時間』はホワイトデー企画に続く予定です。
今回の視点は主に、有紗でした。でも、次回作は秋広視点で進めていきます。
とりあえず、題名だけでもここで公開。『僕と彼女の約束』(予定)
3/14までにちょっとずつUP出来るのか、それとも3/14から連載を開始するのかは まだ分かりません(汗
それでは、この度の企画小説を読んで下さった皆様。本当にありがとうございました。
2005.02.22 管理人:風花
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