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あの日あなたに出会ったこと、それはきっと運命だった。


「あっ」

公園から転がってきたサッカーボールを尾沢が拾い上げて、持ち主らしい小学生の男の子に軽く蹴り返した 。

「お兄ちゃん、ありがとう!!」
「おう!!」

既視感。それは、過去に一度だけ見た光景。


「危ないっ!!」
「へっ?」

小さな体に受けた衝撃。ひりひりする腕をさすりながら、泣きそうになるのを必死に堪えて何が飛んできた のかを確かめた。

「ボール?」
「ごめん!!大丈夫だった!?」
「‥‥これ、ボール使って何してたの?」

外に出ることを知らなかった小さな私。サッカーという遊びを知らない私を、男の子は心底不思議に思った ようだった。

「お前知らねぇの?これ、サッカーボールっていうんだぜ?」
「サッカーボール?」
「‥‥もしかして、サッカー知らない?」
「‥‥知らない」

ボールを抱えたまま、一緒に遊んでいた男の子達と顔を見合わせてボソボソと何かを相談していた。

「お前もする?サッカー」


「お〜い。仲尾?」
「へっ!?」

思い出に浸りすぎて、気付くと尾沢が心配そうに顔を覗いていた。意外に近かったその距離に、思わずびっ くりして後ろによろける。

「そんな驚くことないだろ?お前がボーっとしてるから悪いんだぜ?」
「ゴメンゴメン。ちょっと、色々思い出してて」
「ふ〜ん。‥‥お前も、小さい頃とかここで遊んでたのか?」

ふと立ち止まり、公園を見やって尾沢が訪ねてきた。

「ううん。私は、この公園で遊んだことほとんどない」
「そうなのか?俺はさ、よくここでサッカーの練習してたんだ。毎日毎日 服汚して帰って、母さんによく怒 られた」

知ってるよ。あの日私が出会った男の子は、尾沢 秋広。あなただったから。
きっとあなたは覚えてないだろうけれど、私は1日だって忘れたことなかったよ。

「けどさ、一度だけ あんまり服を汚さずに帰ったことがあったんだよな」
「へぇ〜。どうして?」
「それがさ、笑うぜ?その日だけ、見慣れない女の子が来たんだよ」
「!?」

息を呑む、その音が彼に聞こえなかっただろうか?速まる鼓動を押さえながら、話の続きに耳を傾ける。

「その子すっげ変わっててさ、サッカー知らないって言うんだよ。で、友達と一緒にその子混ぜて遊ぶんだ けどさ 全然ボール上手く蹴れねぇの」

笑って話す尾沢。多分、その女の子は私。でも、尾沢は気付いてないんだろうね。その女の子が私だという ことに。

「‥‥でもさ、上手く出来ないんだけど一生懸命やっててさ。その姿が、なんか小さいながらいいなぁとか 思ったりして。普段、ずっと汚い格好ばかりしてたけど その時だけは、汚れてない格好で その子の前に立 ちたいとか思って。全然、汚れてても恥ずかしくなかったはずなのに その女の子の汚れてない服見たら急に 自分の姿が恥ずかしく感じた。だから、その日だけは綺麗なまま家に帰ることが出来たんだ。‥‥思えばア レが初恋なのかな。てか、俺って 初恋が一目惚れかよ」

私はあの日あの瞬間、あなたに初恋をして 今もその想いに変わりは無い。


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