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「有紗。どう?尾沢君との調子は」
「さぁ。それは、私じゃなく尾沢君に聞かないとね」
「尾沢君の感想を聞いてるんじゃないでしょ。私は、有紗の感想を聞いてるの」

綾香は優しく微笑みながら、私の顔を眺めていた。多分、確信があるんだろう。私が尾沢との期間限定の付 き合いをそれなりに楽しんでいることに。でないと、綾香はこんな表情をしない。

「分かってるくせに。‥‥あえて、私の口から言わそうとするんだ」
「だってやっぱり本人の口から聞きたいじゃない?」

そう言って、二人でクスクス笑う。綾香といる時間は、とてもとても居心地が良くて 自分の置かれている状 況をいつも忘れそうになる。

「っ‥‥!!」
「‥‥有紗?」

鈍い痛みが私を襲う。つい2、3日前からたびたび起こっていたことだった。

「‥‥大丈夫」
「‥‥痛むの?」

気遣わしげな綾香に精一杯の力で微笑んだ。綾香にだけは心配をかけたくなかった。綾香にだけは、こんな 表情をさせたくなかった。心配をかけさせまいと努力する。その努力が、余計に綾香を心配させるんだとい うことには気付かずに。

「でも、一応保健室行ってくるね」
「ついて行こうか?」
「大丈夫大丈夫。まだ、そこまで重症じゃないよ」

保健室までの短い道のり。でも、何故か今日に限って長い道のりに感じた。
また痛み出した胸を押さえながら、壁伝いに歩いていく。ここで倒れるわけにはいかないと、そう心に誓っ ているのに 視界はグラグラと揺れ始めていた。
あ〜やっぱり、綾香について来てもらえばよかったな。そんなことを考えながら、必死に歩いていると やっ と保健室と書かれたプレートを発見した。

「‥っっ‥‥!!」

突然やってきた今までとは比べ物にならないほどの胸の痛み。あまりの激痛に、意識が薄れ始めていた。薄れ ゆく意識と視界の中で、私は尾沢の姿を見た気がした。


「おっ。気がついたかよ」
「‥‥尾‥沢君‥‥」

気がつくとそこは保健室のベッドの上だった。胸の痛みはもう引いていて少しホッとする。

「仲尾〜?目ぇ覚めたかぁ〜?」
「あっ、はい」
「じゃ、尾沢は帰った帰った。もうすぐ授業始まるぞ」
「げっ、マジ?じゃあ、俺戻るけど 仲尾は寝とけよ。貧血だってさ、ちゃんと俺を見習って健康的な生活送 れよ」
「ハハッ。余計なお世話だ」

休み時間一杯、ずっと私についててくれたのかな?そう思うと、自然と頬が緩んだ。
けれども、ぬっと近づいてきた保健医の桜木先生の顔を見ると一気に現実に引き戻されたような気がした。

「先生、尾沢君には貧血だって言ってくれたそうですね。ありがとうございます」
「‥‥仲尾、私はてっきりもう病院に入ってるものだと思っていたよ」
「‥‥‥‥」
「いつまでこんな生活続けるんだ?学校に来るのも、もうつらいんじゃないのか?」
「‥‥そんなことないですよ?まだまだ大丈夫です」
「大丈夫なわけないだろう!?こんな無茶なマネばかりしていて、体にいいわけないだろう!?もう少しお 前は自分が病人だということを意識すべきだ」

死ぬことを怖いと思ったことは、今まで一度だって無かった。


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