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時間がない。その現実が、もう目の前まで迫っていた。


「お疲れ」
「おう」

部活が終わるのを待ってから、尾沢と並んで歩く帰り道。
勘違いかもしれないけれど、歩調を私に合わせてくれている気がする。その優しさがとてもとても嬉しかっ た。酷いことを言った私を許してもらえてるような気がするから。

「そういえば、今度練習試合があるんだ」
「へぇ〜。いつにするの?」


「来月の14日」


「‥‥えっ‥‥」
「ん?どうかしたか?」
「ううん。何でも‥ない」

聞かなければ良かったと、そう思った。
唐突に思い出す。自分にはもう、来月という近い未来でさえもはっきりと見ることが出来ないことを。

「‥‥観に来るだろ?」
「え?」
「‥‥試合」

夕暮れのせいかもしれない。あるいは私の目がおかしくなったのか‥‥?

「‥‥来ないのかよ」
「え、いや‥‥行くよ?」

少し頬を赤らめて、フッと安心したように小さく笑った。
思わずじっと彼のことを凝視していると、その視線に気付いた尾沢が慌てていつもの無表情に戻す。

「なっ、何だよ」
「べっつにィ〜?」

楽しくて楽しくてしかたがなかった。この瞬間、この時間が‥‥今まで生きてきた中で、一番充実していて 楽しい時だった。
もうすぐ終わってしまう期間限定の恋に、涙がこぼれそうになる。けれど、泣いてしまうわけにはいかなく て、弱音を吐いてしまうわけにはいかなくて‥‥。
切なくて、悲しくて、息がつまるような想いをした。こんな想いをするのは、きっとこれが最初で最後だと 私はそう思うよ。

「そういえば、お前貧血大丈夫だったのか?」
「え?あ、あぁ うん。大丈夫大丈夫」

一瞬何のことを言われたのか理解することが出来ずに、慌てる。尾沢には、この間のことを貧血だと伝えて あったのだ。
先生の機転に感謝する。こんなところで、本当のことを話されでもしたら 今までの過程が台無しになってし まうから。
そこでふと大事なことを思い出す。

もしかして私、さっき試合観に行くって言った!?

守ることの出来ない約束をしてしまったと、気付いたときにはもう遅かった。

「ならいいけど。‥‥お前の普段の姿からは貧血とか想像つかないな」
「どういう意味よ」
「‥‥自分で考えれば?」

この時間を失うのが怖い。そう改めて実感した。


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