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side 秋広

あの日、結局弁解の電話も何も俺が期待するようなことは無かった。
一体、何を期待していたんだか。あれは、間違いだったんだ。そう、言ってもらいたかったのか?明日ちゃ んと返事をくれと、言ってもらいたかったのか?
自分で自分に嫌気がさす。俺はあいつを嫌ってたはずだろ?嫌悪感を抱いていたはずだろ?なのに何なんだ 、今のこの気持ちは。

『別れて欲しいの』

お前の口から、そんな言葉を聞けるとは夢にも思ってなかったよ。
お前への評価を改めたのは間違いだったかな。‥‥お前は、やっぱり最低なやつだったよ。

「尾沢君。これ、渡すように頼まれたんだ」
「え?」

差し出されたものは、小さな可愛らしい箱。
多分、今日はバレンタインデーだから チョコレートか何かだろう。

「悪いけど、そういうのは本人に持ってきてもらえるようにしてくれないか」

チョコを持ってきた女生徒は少し驚いたような顔をしたあと、フッと笑った。

「それもそうね。けど、あなたの意見を呑むことは出来ないわ」
「‥‥何で」
「送り主が学校に来てないから」
「‥‥仲尾‥か‥‥?」
「へぇ〜、よく気付いたわね」

何となく今朝気になってあいつの教室を覗きにいった。けど、どうやら休んでいるようだったので別に何か 行動を起すわけでもなくおとなしく自分の教室に戻ったのだった。

「‥‥仲尾のものなら、なおさら受け取るわけにはいかないな」
「どうして?」
「あんなふざけた奴のチョコなんているかよ!?おかしいだろ!?昨日、あいつは俺のことを振ったんだ。 自分から告白してきやがったくせに、あいつはもう忘れていいとか言いやがった。なのに、今日になってチ ョコ?ふざけんのもいい加減にしろよ!!あいつにもあんたから言っといてくれよ」
「‥‥あなたの方がふざけてんじゃないの!?一体あなた有紗のどこを見てたの!?あの子が、あの子が何 の理由も無しにそんなこと言い出すと思う!?」

仲尾の友達らしき女生徒は、箱と一緒に付いてあったカードを俺に差し出した。

「‥‥何」
「読んで」

カードを受け取り、訳も分からずに目を通す。

――― 『迷惑かけてゴメン。振り回してゴメン。自分勝手でゴメン。
     でも、尾沢君を好きな気持ちに 嘘偽りは無かったよ。今まで、ありがとう。』

「何だよコレ。‥‥好きなら、どうしてあんなこと」

ここには確かに好きだと書いてある。その気持ちに嘘偽りは無かったと。なら、どうして昨日あんなことを 言ったのか。

「それに、‥‥このこれで最後みたいな文章は何なんだよ」


「有紗、‥‥今病院にいる」


「はっ?何で、あいつ どっか悪いのか?この間貧血とかっつって倒れたけど」
「貧血なんかじゃないわよ」

固い表情のままなかなか口を開かない女生徒に苛立ちが増す。

「何なんだよ」


「心臓が、悪いのよ。昔から」


心臓が悪い?で、今病院にいるって?

「私の勘違いじゃなかったら、尾沢君も‥‥有紗のこと好きだよね?」
「‥‥‥‥」
「今から言うことを聞いても、好きでいてくれるなら‥‥有紗のところに行ってあげて欲しい」
「何だよ」
「明日、有紗は手術を受けるの。この手術を受けないと、もう助からないから」
「‥‥それで、助かるんだろ?」
「問題は、そこからよ」

続いた言葉に愕然とする。そして、唐突に思い出す。
昨日のつらそうなあいつの顔と震えていた声を‥‥。



「成功率が5%の手術なの」


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