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〜 迷い犬 〜
『ただ君の幸せを‥‥。』より 斉藤 達也


「何だぁ?こいつ」

前方からのろのろと歩いてきていた犬が、とうとう俺の目の前までやってきた。特に犬が苦手とかいうわけ でもなかったから 逃げるわけでもなく、ただ犬と睨み合っていた。

「ワンッ!!」
「‥‥‥‥‥」

面倒ごとに関わる気は無かったので、早々にその場から退散しようとする。けれど‥‥‥

「何で、お前はついてくるんだ」
「ワンッ」

嬉しそうに尻尾をパタパタと振る、目の前の中型犬。恐らく、いや 間違いなく柴犬。

「飼い主のところにでも早く戻れよ」
「‥‥‥‥?」

くそぅ。可愛いじゃねぇか。
首を少し傾けてつぶらな瞳で俺を見つめ返してくる。

「しょうがねぇな」

結局俺は、こいつの可愛さに負けて飼い主探しに付き合ってやることにする。幸い、首輪のところに連絡先 がついていたので 特に困ることは無かった。

「ありがとうございました!!」
「いえいえ」

飼い主に引き取られた柴犬に一度視線を送り、目が合うと すぐに視線を逸らし背を向けて歩き出した。

「本当にありがとうございました」
「ワンッ!!」

離れがたくなる前に、早くここから立ち去ろう。
そんな達也の心情を誰も知らない。


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