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夢で逢えたら

伝えたいことがあった。
もう何年も、伝えようとして‥‥伝えられなかった。
たった一言が言えなくて、あなたに声すらかけられなくて‥‥。
ただ、遠くから見ていることしか出来なかった。


こんな気持ちになったのは 初めてのことで‥‥、
戸惑いばかりが、私の心の中を支配していた。


あなたを偶然町で見かけたとき、
真っ直ぐに見ることが出来なくて、思わず逃げ隠れてしまった私。
あなたは私に気付いていただろうか‥‥?


どうしてかな?
普段の私は、こんな子じゃなかったはずなのに‥‥。
あなたを前にすると、いつもの私ではいられなくなるんだ。


バレンタインデーに用意したチョコレート。
鞄の中に眠ったまま、結局渡すことが出来なかった。


後悔は、あとからあとからやってきて、
渡せなかったチョコレートを見て、ベッドの中で 静かに涙を流した。

『どうして、渡せなかったんだろう』

もう、後悔だけはしたくなかった。


ある朝、学校までの道のりで一台の救急車とすれ違った。
そんなこと、初めてのことじゃないのに、
その日はずっと、救急車の音がいつまでも耳の奥底で響いていた。


あなたが使っていたはずの 教室の片隅にあった机は、
あの日から、主をなくしていた。


風の噂で聞いた。
あなたは、あの日の朝‥‥救急車に運ばれていったと‥‥。


あなたに伝えたかったこと、私は直接伝えたかった。
眠り続けるあなたには、私の声は届かない。


病院のベッドで眠るあなたに会いに行ったとき、
あなたの側で、お母さんが泣いていた。
部屋に入ってきた私に、か弱い微笑みを見せながら、

『ありがとう。この子のために来てくれて』

と言ってくれた。
あなたは聞いたことがあるのかな?
自分の母親の こんなに悲しい響きのする声を‥‥。
自分の母親の こんなに切ない表情を‥‥。


季節は変わり、冬から春になりました。
それでも、あなたは眠り続ける。


冬眠から自然に生きる動物が目覚める中で、
あなたは一人眠り続けるのですか?


あなたの魂は、一体どこをさまよっているのだろう?
あなたに伝えたい言葉は、想いは、
まだ私の中で息づいているのに‥‥‥。
伝えたい、あなた本人が‥‥今は いない。


いつあなたは目覚めますか?
いつ私の想いを聞いてくれますか?


今日も私は、あなたの眠る姿と 儚げで壊れそうなあなたのお母さんの背中を見つめて来ました。
親不孝物だと、きっとあなたは言われるよ。
お母さんにあんなに心配かけて、あなたは何てお母さんに謝るの?
まだ、お父さんの姿は見たことないけれど‥‥
たまに、病院の入り口で心配そうにあなたの病室を見上げていた、あなたにそっくりな男性は、もしかしなくてもあなたの父親でしょうか?


『どうして、こんな所で立っているんですか?』

私が話し掛けると その男性は、私をチラリと見たあと また切なげな表情で、あなたの病室を見上げていた。

『私の息子がね、入院してるんだ』
『‥‥会いに行って、あげないんですか?』
『知ってるかい?願掛けするときには、好きなものは我慢しなきゃいけないんだ』
『知ってます』
『私はね、息子が早く目覚めるように 願掛けしてるんだよ。私があの子に会うときは、あの子が目覚めた時だ』

きっとお父さんは、あなたに会いたくて会いたくてしょうがないんだよ。
でも、それを我慢して 願掛けをしてるんだ。
あなたの目覚めを待つ人は、たくさんいるんだよ?


あなたに伝えられなかったこと、言えるかな?
夢の中でなら、あなたに会えるから‥‥。
そしたら、あなたのお母さんとお父さんがどんなに心配してるか教えてあげる。
だから、今日の眠ったら あなたに逢えるといいな。


夢の中で会ったあなたは、元気だった頃のあなたのままだった。

『ねぇ』

私の声は、届かない。
夢の中でなら、ずっと伝えられなかったこと‥‥言えるかな?

『好きだよ』

あなたはやっと振り向いた。
目が合うと、少し背筋が強張った。

『ねぇ、早く起きて?お母さんも、お父さんも待ってるんだよ?』

あなたの声は、聞こえない。
じゃあ、私の声は?ちゃんと、聞こえてる?

『私だって、あなたに直接伝えたいことがある』

あなたの目に、少しだけ光るものが見えた気がした。
それは、私の見間違えかな‥‥?


それは、桜が散る間際の出来事だった。
眠っているはずだったあなたが、病室に入ってきた私を真っ直ぐに見つめてきた。
思わず手に持っていた荷物を落としてしまった私。
口に手を当てて、溢れそうな涙を必死に堪えていると、
あなたは笑って迎え入れてくれた。

『俺さ、眠ってるとき‥‥お前に会ったよ』
『え?』
『笑われるかな?こんなこと言うと』
『そんなことないよ』

あなたに直接伝えたいことがある。

『夢で、もしかしたら聞いたのかもしれないけど』
『え?』
『好きだよ』

あなたは少し驚いた顔をして、それから笑った。

『俺、お前に助けられたんだ』


やっと伝えられたこの想いは、一体何年分の想いが込められているのだろう?
後悔するだけの日々は、もう 送らないと決めた、桜散る間際の春の日。


***あとがき***
6000HITの記念小説です。
えーっと、今回はキリ番踏み逃げ(あるいは気付いてない)ってことで勝手に書かしていただきました。
今までも何回か、キリ番踏み逃げされてたんですが 忙しさのあまりキリ番があったことを無視していました。
↑なんていい加減な管理人なんだ!!っていうことは、あえて考えないように(笑)
この小説の最初の設定では、男の方は死ぬ予定でした(汗)
う〜ん。でも、結局生き延びさせてしまったということです(笑)
それでは、この小説を読んでくださった方 ここまでお付き合いしてくださりありがとうございました!!
2004.08.06 管理人:風花
Copyright (c) 2004 huuka All rights reserved.



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