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● 不器用な私達 --- 1 ●

「ハル〜!!来週の試合、任せたぞ!!」
「うぃーす」
「しっかりしてくれよ?お前にかかってるんだからな?」
「まぁ、お前なら大丈夫だろうけど‥‥」


「なんてったってお前は、天才・柏木ハルだもんな」


来週に大事な試合を控えた男子バスケの部員が、隣のコートでハルを取り囲み何やら騒いでいた。

「今日も言ってるよ、男子達‥‥。ここんとこ毎日じゃない?」

ボールを両手で持ったまま、男子コートの方を女子バスケの部員は眺めていた。

「先輩も先輩だよね。ハルってまだ一年なのに、大事な役回りを全部ハルに押しつけてるもんね」
「でも まぁ、仕方ないって言えば 仕方ないよね。‥‥ハルって、あの中で一番上手いから。天才なんていわれてるしね」


天才・柏木ハル。この学校で、その名を知らない人はきっといないだろう。バスケの才能だけでなく、容姿でも目立つ人だから。


「いいよねぇ〜。愛里は」

突然 話を振られ、ワンテンポ遅れて返事をする。

「―――‥え?何が?」

話を振ってきた鈴花の隣にいた奈津美は、呆れ顔で私を見る。

「バーカ。あんたの幼馴染のことよ」
「ハルのこと?」
「そう」
「‥‥ハルがどうかした?」

鈴花が「もう!」と少し頬を膨らませて愛里を睨んだ。

「‥‥え‥なっ何?何か変なこと言った?」
「これだから幼馴染って奴は‥‥」

軽くため息をつき、ヤレヤレといったような感じで奈津美は私を見た。そして鈴花が腰に手を当てて、ちょっと声を小さめにして愛里に言った。

「天才・柏木ハルと幼馴染でしょ?みんなそれを羨ましがってるの!!」

「―――‥ふ〜ん」

あまり反応を見せない私を見て、鈴花はがっくりと肩を落とした。

「もう、いい。真剣に愛里に話した私がバカだった」

鈴花の肩にそっと手を置いた奈津美は、同情の眼差しを鈴花に向けた。

「そうよ鈴花。あんなの相手にするのが間違いなのよ」
「‥‥あんなのって‥」
「さぁさぁ、愛里なんてほっといてハルに声かけに行こうか」
「そうだね。行こっか」
「‥‥えっ、ちょっと‥‥」

勝手に話を進めてとっととハルの方に行ってしまった奈津美達に乗り遅れて、私は一人置いてかれてしまった。

『天才・柏木ハル』

「―――‥天才なんかじゃ、ないのにな‥‥」

少し離れた男子コートの真ん中で、楽しそうに笑っているハルを眺めながら、愛里はそっと呟いた。

その声は、誰かに聞かれることなく 愛里の周りだけで、静かに響いた。

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