●● 運命という輪の中で --- 第五章「想い」(1) ●●
君が私に笑いかける。
ただそれだけのことが、こんなにも嬉しいなんて、知らなかった。
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あの日以来、私は津川と普通に話せるようになった。
突然変わった津川の態度に、同じクラスの人達はビックリしていた。あと 私も、最初のほうは、なかなか慣れなくて、うれしいんだけど‥‥‥少し変な感じがした。
『よかったね』
『よかったじゃない』
美和と明日香に改めてそう言われたとき、不覚にもまた涙がこぼれそうになった。
『ありがとう』
あの日は嬉しくて嬉しくて、妙に興奮して 夜、なかなか寝付けなかった
でも、次の日に学校に行ったら アレは夢で、また 津川の冷たい目を見続けなければいけないんじゃないかと、悪い方にばかり考えていた。だから、教室に入って‥‥
『おはよう』
そう言われたときは、ものスゴク嬉しくて、夢じゃないんだって確認できて、例によって また 涙がこぼれそうになったのは言うまでも無い。
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「―――‥‥クシュッ」
2・3日前から、ちょっと調子が悪い。たぶん風邪なんだと思うけど‥‥。
「休むほどでもないよねぇ〜」
「沙和〜?何?風邪ひいたの?」
「んー。そうみたい」
「めずらしいね。沙和が風邪ひくなんて」
「だよね」
「何だよ、明智。風邪ひいたのか?」
いつの間にか目の前まで来ていた津川が、話し掛けてきた。
「うん。風邪っぽい」
「大丈夫なのか?」
「うん。今の所はね」
「そっか。まぁ、気をつけろよ」
「うん。ありがとう」
優しく微笑んだ津川は、ポンポンと2回ほど私の頭を軽く叩いたあと 自分の席へと戻っていった。
夢じゃない。その事実が今、どうしようもなく嬉しい。
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